2011年01月24日

改めて考える“産業空洞化”

経済研究部 シニアエコノミスト   上野 剛志

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近年「産業空洞化」への懸念が高まっているが、一方で「産業空洞化」、すなわち「海外移転による国内製造業の衰退」の実態は掴みにくい。そこで、産業の裾野が広く、日本の経済成長に大きく貢献してきた(注1)自動車産業について、生産台数の推移から空洞化の状況を考察してみる。
2008年上期まで、国内自動車メーカーは海外生産を急拡大するとともに、輸出を拡大することで国内生産も拡大させてきた(図表-1)。その後金融危機の影響で海外・国内ともに大幅に生産が落ち込んだが次第に回復し、10年上期時点で海外生産は08年上期の水準を上回るまでに至っている。一方で、国内生産は輸出の戻りが遅いことを主因に同期の水準を依然大きく下回っている。次に、海外生産と輸出の状況を地域別に見ると(図表-2)、日本が従来主戦場としてきた欧米では市場の低迷により10年上期の現地生産・輸出ともに08年上期水準を下回っている。その反面、成長著しいアジアではこの間に市場が大きく拡大したが、日本メーカーにおいて拡大したのは現地生産のみで(結果としてアジアでの生産台数が欧米計を逆転)、国内生産の喚起に繋がる輸出は横ばいに留まっている。
所得水準が低いアジアでは、製品選択において価格が重視されるため、コスト競争力の高い「現地で作って現地で売る」事業モデルが有利なのは否めず(注2)、今後とも海外シフトの圧力は続くと考えられる。これに対して「日本で作って海外に売る」モデルには、急速に進んだ円高、国際的にみて高い法人税率、貿易自由化への取組みの遅れ、高い人件費といった強い逆風が吹いており、「日本のモノづくり」環境は激変していると言っても過言ではない。日本国内に「モノづくり」を残すためには、余程大胆な対応が求められるという認識が必要だろう。

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上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融、日本経済

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