コラム
2011年01月17日

消費税は福祉目的税とすべきか

  遅澤 秀一

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財政再建のためには消費税率引き上げが必要だということは、国民の間でも次第に理解されてきているようだ。その一方で、消費税を上げるのであれば使途を明確にして福祉目的税とすべきだとの主張も根強い。だが、財政再建と増税分を福祉に使用することは両立するのだろうか。消費税を上げても増税分をすべて使ってしまえば、歳入・歳出が両建てで膨らむだけでプライマリー・バランスは改善されないからである。

高齢化の進展に伴い、高齢者関連の社会保障予算は自然増が見込まれるので、増税が必要だとの議論もあるだろう。しかし、現在のプライマリー・バランスが均衡しており、高齢者増加分を増税で手当てするというのであれば理解できるが、財政赤字が垂れ流し状態である以上、増税分を福祉の自然増部分に使うのは時間稼ぎにしかならない。財政赤字を無限に積み上げるわけにはいかないからだ。結局のところ、現行制度を温存したままでの増税は、その恩恵を受けるのが現在の高齢者世代だけということになりかねない。

歳入に眼を向ければ、増税しても医療や介護に回せば成長率が高まるので、結果的に税収が増えて財政再建につながるという主張もある。かりに介護従事者の所得が増えても、現役世代の可処分所得が減少するのであれば総計での消費は増えないだろう。金融資産を持つ高齢者からかつかつの生活をしている現役世代に金を流すのであればともかく、逆をやっては効果が薄いだろう。また、現在は埋蔵金も使って何とか予算を組んでいる状態である。しかし特別会計に剰余金があったとしても、日本の財政状況を考えれば本来は国債償還原資となるべきものだから、赤字国債を発行して得た資金と事実上等しい。したがって、埋蔵金の有無や規模など二義的な話であって、赤字国債を何に使うのかという問題でしかない。

要するに、増税しようと別の財源を見つけてこようと、自分たちに回せという高齢者の大合唱に政治が流されれば財政再建は不可能である。財政再建のスタートラインは社会保障費の無駄にメスをいれることでなければならない。将来の世代はインフレ税を含む増税か行政サービスの低下を受け入れざるを得ないだろう。世代間の公平を考えれば、社会保障は将来に亘って持続できる水準まですみやかに縮小させるべきである。それが遅れれば遅れるほど、将来世代の老後の生活はより悲惨なものになるだろう。消費税を福祉に使うのは結構なことだ。問題はその福祉の対象が現在の高齢者なのか将来の高齢者なのかということなのである。本当の弱者は現在の高齢者ではなく、将来の高齢者である。

このままでは、民主主義とは一人ひとりが将来の世代に対して暴君ネロとして振舞い苛烈な圧政を課すことができる制度であることを確認するだけだ。もっともその前に財政が破綻し、高齢者はすべての既得権を失うかもしれない。前者であれば政治史における民主主義の腐敗の先鋭的な例として、後者であれば強欲のあまりすべてを失った日本のスクルージたちの悲喜劇として記憶されることになるだろう。いずれにしても、日本は世界に何某かの教訓を残すことになる。近視眼的な損得計算よりも、公平や正義に対する良識に基づく判断を望みたい。

遅澤 秀一

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