コラム
2011年01月04日

“普通の人”の不動産投資を考える

  松村 徹

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“平均的なビジネスパーソン(普通の人)にもできる不動産投資”はよくある取材テーマだが、簡単に答えることはなかなか難しい。何よりも、国内では長期的にみて地価や不動産価格の下落リスクが大きく、ある程度のキャピタル・ロスの発生を前提に考えないといけないからだ。値下がりによる投資収益率の低下を回避するには、(1)インカム・ゲインの持続的上昇や、立地環境変化などでの価格上昇が見込める優良な不動産に投資する、(2)高いインカム利回りが期待できる不動産に長期投資する、(3)証券市場での値上がりが期待できる証券化不動産に投資する、(4)競売などで市場価値より安く仕入れた不動産の稼働率や賃料を引上げて資産価値を上げる、などが考えられる。

また、個人の家計では、含み損は売却しない限り実現化しないので、投資収益率を気にせず、(5)所有し続けて賃料や配当金などを個人年金代わりに受け取れればよい(金利や税金など諸費用を差し引いてプラスであることが必要)、という考え方もあるだろう。さらに、実物不動産の資産特性に注目して、(6)最後に何らかの資産価値・権利が残ること、(7)住宅や店舗として自ら専有して使用できること、(8)相続税評価などの節税効果など、利回りでは測れない非金融的な便益を評価することもできる。

残念ながら、不動産リテラシー(不動産に関する適切な情報を収集して活用できる基礎能力)の高い不動産業者や機関投資家といえども、「(1)値上がりする優良物件」を手に入れることは容易ではなく、不動産市場と日常的に縁のない普通の人が成功する確率は限りなく低いだろう。また、中古不動産の目利きや相場観、価格引上げ能力が求められる「(4)バリューアップ」も、普通の人が片手間に出来る投資スタイルではない。専門家の協力を仰げば儲けが少なくなる上、専門家といえども失敗することがある。中古住宅の場合、1戸程度の区分所有権ではバリューアップは難しく、棟単位では手間隙がかかって投資金額も大きくなり過ぎる。

そこで、典型的な不動産投資対象であるワンルームマンションとJ-REIT(不動産投信)、マイホームについて、「(1)値上がりする優良物件」と「(4)バリューアップ」を除いた上記項目について当てはまりを比較してみる。なお、アパート経営は、不動産投資というより賃貸不動産事業とみるべきなので、ここでは検討しない。

まず、ワンルームマンションは、投資収益率が低いため「(2)高いインカム利回り」は期待できないが、「(5)現金収入」は期待できる。また、実物不動産(区分所有権)なので、「(6)実物が残る」、「(7)(投資に失敗しても)専有可能」、「(8)節税効果」が期待できるが、「(3)証券市場での値上がり」はない。これに対し、J-REITは、「(2)高いインカム利回り」、「(3)証券市場での値上がり」、「(5)現金収入」が期待できるが、実物不動産のメリットである「(6)実物が残る」、「(7)専有可能」、「(8)節税効果」はない。しかし、流動性、透明性、小口性という金融商品が備えるべき基本条件についてみると、当然ながらJ-REITはワンルームマンションよりはるかに優れており、資産の分散も効いている。

次に、普通の人にとって人生最大の投資といえるマイホームは、当然ながら「(7)専有可能」が最大の利点である。マイホームは、多くの場合、資産の減価から逃れられないが、生活のために利用する大型耐久消費財ともいえ、投資収益率だけでは測れない資産だからだ。実物不動産なので「(6)実物が残る」が「(3)証券市場での値上がり」はなく、自ら専有して使用するため「(2)高いインカム利回り」と「(5)現金収入」は期待できない。ただし、今後、リバース・モーゲージ(マイホームを担保にした金融機関からの貸付け。逆住宅ローンともいう)が普及すれば「(5)現金収入」も可能となる。また、「(8)節税効果」はないが、マイホーム取得にあたっては所得税や贈与税の優遇制度、住宅エコポイントなどが手厚く用意されている。

このように整理してみると、普通の人で不動産投資に興味を持つ方には、「まず自分の住宅のことを一生懸命に考えるべきで、さらに余裕資金があり、インカム利回りを重視する投資がしたいなら、J-REITでの長期運用も検討してはどうか」というアドバイスになろうか。J-REITの分配金は比較的安定しているので、固定資産税や維持管理費などマイホーム関連支出の一部に充てるといいかもしれない。もちろん、マイホームを持たないという選択もあるし、若いうちは賃貸住宅で過ごし、頭金や維持管理費を着実に積み立てて、中高年になってからマイホームを購入することもできる。ただし、若い人の場合は、マイホーム取得や不動産での余資運用を検討する前に、自分の職業能力を高めて本業でしっかり稼げるようになることが、長い人生において最優先の課題だと思うが、いかがだろうか。

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