コラム
2010年11月30日

地域づくりと団塊世代~瀬戸内国際芸術祭に学ぶ

赤松 秀樹

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10月末に瀬戸内国際芸術祭というイベントが幕を閉じた。(※)

瀬戸内海の7つの島に世界各国のアーティスト達が思い思いに現代アートの作品を展示。若い人達を中心に大変な盛り上がりを見せ、主催者の発表によれば105日間の期間中の来訪者は、当初目標の30万人を超える94万人にも達したとのこと。

高校の後輩が、是非自分のプロジェクトを見て欲しいというので思い切って足を延ばしてみたが、普段はひっそりと過疎化の進んだ小さな島が、思い思いの服装をした若い人達の熱気で溢れていた。大会をサポートしたベネッセのこの地域での長年の取り組みもあるが、プロジェクトに参加し様々な活動を通じて祭りを盛り上げてきた若い人達の熱意の成果と思われる。高齢化し過疎化した地方の村が、こういったことをきっかけに活性化し、新しい魅力ある場所になって欲しいと強く思った。

今や地方の活性化、地方分権は政治家のお題目のようになっているが、ただ地方政府に金と権限を与えればすぐに地方が活性化する、などということがあり得ないのは20年前の「ふるさと創生事業」で経験済みだ。沈滞した地方を活性化させるプロジェクトに長年にわたって取り組み、数々の成果を挙げてこられた東京大学の牧野篤教授によれば、地域活性化のプロジェクトが成功する為に欠かせないのは「若者」「よそ者」「馬鹿者」だとのこと。これまでの固定観念に囚われずに新鮮な目で地域の隠れた魅力を見いだす「よそ者」のアイデアを、何が何でも実現させるという強烈な熱意を持った「馬鹿者」が取り上げて周囲を巻き込んで風を巻き起こし、行動力とエネルギーに溢れた「若者」達がその気になって動き始めたら、それまでとは全く違った姿の街が出来上がるのではないか?そうした期待を抱かせる瀬戸内国際芸術祭の成功だったように思う。

一方、地方の過疎化もさることながら、急速に進むわが国の高齢化の中で、とりわけ後期高齢者の激増が予想される都市部における高齢化こそが、これからの大きな問題であると言われている。同時に、今後本格的に第一線を退く団塊世代サラリーマン達が、次のステージの人生をどのように充実させ、社会にも貢献出来るかが、2012年問題の一つとして様々に論じられている。

都市部に住む多くの団塊サラリーマンは、定年を迎えたところで、長年同じ地区に住んでいても所詮その街にとって「よそ者」であり、地域の仲間としてすんなり受け入れて貰える人間関係を持っていない事に気がつくだろう。しかし、改めて「よそ者」の目でよくよく身の回りを見直してみると、結構手つかずの宝が埋もれているし、解決すべき課題も見つかるのではないだろうか?だとしたら、少しでも自分の住む地域が住みやすくなる為のアイデアを、少しくらいの周囲からの冷たい視線や抵抗にめげずに「馬鹿者」になって提案し続けてゆけるかの勝負だ。そうしてうまく行動力に溢れた若者達を納得させ動かすことが出来れば、地域の活性化に繋がる大きな変化の渦の中に身を置くことで団塊サラリーマンOB達自身も、生きがいのある第二の人生を送ることが出来るのではないか。

尤もくれぐれも黒子に徹する謙虚さを忘れてはならないが。
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