コラム
2010年11月01日

インターネット検索量で考える、マーケット・トレンド

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

文字サイズ

「何かの情報を知りたい時は、まずインターネットで検索する」というスタイルは、現在、もはや常識と言って良いだろう。

古くは消費者の行動プロセスについて、Attention(注意)→Interest(関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動)で表わされるAIDMAの法則で説明されていた。しかし、情報にあふれた現在では、Attention(注意)→Interest(関心)→Comparison(比較)→Examination(検討)→Action(行動)→Share(情報共有)で表わされるAICEASの法則で説明されており、インターネットの台頭、特にeコマースの登場以降は、より簡潔な表現として、Attention(注意)→Interest(関心)→Search(検索)→Action(行動)→Share(情報共有)で表わされるAISASの法則で説明されている。

つまり、消費者が商品やサービスを購入する際、吟味・考量する「記憶」のプロセスに代わり、情報を調査・共有する「検索」・「情報共有」のプロセスが、消費者の購入行動における決定要因として重要視されるように変化したのだ。

ところで、某大手検索エンジンサービスでは、キーワードの検索量を分析できる無料サービスを提供している。このサービスでは、同時に5つのキーワードについて、一定期間における検索量の比較ができ、国別・地域別の分析も可能だ。また、当該期間においてキーワードに関する大きなニュースがあった場合、ニュースも連動表示される。

例えば、同サービスを用いて、携帯音楽プレーヤーの代名詞となっている「iPod」、同じようにスマートフォンの代名詞となっている「iPhone」、斬新なタブレット型コンピュータとして注目される「iPad」について検索量を調べると、以下のような結果が得られる。
図1. Google insights for searchによる「iPod」・「iPhone」・「iPad」の検索量
この図では、当該期間における分析対象のキーワードのうち検索量が最大値のものを100とした時の相対量が表示されている。同サービスでは、この検索量を人気度と表現している。検索量が多ければ多いほど、人々に注目されており、人気度が高いという考え方だ。

図1から各商品のトレンドを読み解くと、まず「iPod」は、これは2001年に発売された商品だが、現在は世界でも日本でも定番商品として固い位置にいるということが分かる。これは「iPod」を示す青いラインは、どちらのグラフでも常に一定レベルの検索量を保っているためだ。尚、細かなピークは商品のバージョンアップ等の影響と考えられる。次に「iPhone」は、初代発売当初の注目度はさほど高くなかったが、現在はうなぎ登りだということが読み取れる。これは、どちらのグラフでも、2007年6月の初代発売時(日本未発売)は小さかったピークが、2008年7月の「iPhone3G」発売により「iPod」と同程度の注目度に上がり、2009年6月の「iPhone 3GS」発売、2010年6月の「iPhone4」発売に牽引され、ピークが着々と上昇しているためだ。このグラフの現象は、2008年度より「iPhone」の出荷台数は飛躍的に増加しているという事実1や、日本の出荷台数の詳細は未発表だが、日本におけるスマートフォン全体の出荷台数は増加しており2「iPhone」はその中で約6割のシェアを獲得しているという事実3とも傾向が一致している。最後に「iPad」は、日本では当初注目されたが、その後、注目度は下がっているということが読み取れる。これは、日本のグラフにおける黄色の折れ線の形状から明確に分かるだろう。おそらく当初は商品の先進性により高い注目を集めたが、米国では「iPad」利用の目玉となっている電子書籍等のコンテンツが、現在の日本ではまだ発展途上にあり、実際には端末を十分には活用し難い状況にあるためだろう。

以上のように、現在、インターネットの台頭によって消費者行動に「検索」というプロセスが生じ、その検索状況を分析可能なサービスも展開されている。つまり、インターネット上に、かつてないほどの消費者に関するデータが集まっているのだ。マーケット・トレンドを分析する上で、これらを活用しない手立てはない。大量のデータをいかに読み解き、いかに事業に活かしていくか。マーケッターとしての資質が問われるところだ。
 
1 Apple Inc., Press Release ”Apple Reports Fourth Quarter Results” (2008/10/21,2009/10/19, 2010/10/18)
2 株式会社MM総研, ニュースリリース “国内携帯電話およびスマートフォンの市場規模予測”(2010/8/31)
3 asahi.com(朝日新聞社), “スマートフォン出荷数、今年度上半期で昨年度1年並み” (2010/10/26)
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【インターネット検索量で考える、マーケット・トレンド】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

インターネット検索量で考える、マーケット・トレンドのレポート Topへ