コラム
2010年09月29日

米“貧困率”急上昇の波紋

土肥原 晋

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注目集めた米国貧困率の上昇

先頃発表された米商務省センサス局発表の2009年所得・貧困統計では、貧困層の比率が14.3%と前年の13.2%から大幅に上昇、1994年以来15年ぶりの高水準となった。貧困層の人数では4357万人と2008年(3983万人)から374万人の貧困層を増加させるなど統計を開始した1959年以降の最大数を記録した。また、家計全体の実質所得(物価調整後の中央値)は49,777ドルと2年連続で低下、1998年(同51,100ドル)を下回る水準となった。年に一度の今回の統計について米国での注目度は大きく、これまであまり報道されていなかった日本でも取り上げられた。

当統計は、所得階層別に人種、年齢層、地域、等による詳細な人数分布調査を行っている。貧困所得の算出にあたっては、OMB(行政予算管理局)が貧困所得ラインを「最低限の市民生活を営める所得レベル」を家族構成に応じて設定、これを下回る層を貧困者世帯と定義し、センサス局が所得調査を行って集計する。所得は課税前ベースとし、キャピタルゲインや非金銭給付であるフードスタンプ・住居助成等は含まれない。

2009年の具体的な貧困区分所得については、4人家族(子供2人)の場合は21,756ドル、夫婦14,366ドル(65歳以上は12,968ドル)、単身者11,161ドル(65歳以上は10,289ドル)等となる。子供が増えると貧困区分所得が上昇し、8人家族(子供6人)のケースでは35,300ドルまで引き上げられる。このため、18歳未満の貧困率は20.7%(2008年は19.0%)と実に5人に1人が貧困層に含まれることを示し、貧困層全体の35.5%を占めている。

(注:貧困区分所得については、同様の定義による、より簡略化したものをHHS(Department of Health and Human Service)がPoverty Guidelineとして別途公表している。4人家族22,050ドル、単身者10,830ドルと上記とほぼ同額となるが、こちらは各州の社会扶助給付等に用いられている)

貧困率は失業率に追随、11月の中間選挙への影響大きく

後掲のグラフのように、貧困率は好不況の影響を受けやすく失業率との相関が強い。近年の推移を見ると、93年に15.1%と83年(15.2%)以来10年ぶりの高水準をつけた後、クリントン政権最終年の2000年には、11.3%と1959年以降のボトムである73年(11.1%)に接近した。その後、12%台での推移が続いたが、先のリセッション入り後は急上昇を見せている。今回の急上昇も、失業率の上昇等、二次大戦後最大とされるリセッションが強く影響した形である。なお、貧困率は失業率に遅行する傾向があるため、2010年もさらなる上昇が予想され、低下に転ずるのはしばらく先のこととされる。

貧困率発表に際して、オバマ大統領は「景気対策や政府の支援が多くの家計を支援し、数百万人もの米国民を貧困に陥ることから防いだ」としながらも、「貧困下にある人々の数は受け入れがたいほど多く、我々のなすべきことが始まったばかりであることを示した」とコメント、また、同大統領は9月に発表した追加の景気対策について、議会に一刻も早い成立を呼びかけている。

しかし、オバマ政権のこれまでの景気対策が失業率の改善に?がっていないとの批判は強く、大統領の支持率が低下、民主党は中間選挙での劣勢を余儀なくされている。雇用関連の政策では、民主党は失業保険の延長等に手厚いが、共和党サイドでは貧困者に必要なのは政府支援の拡大よりも雇用だとして反対に回っている。

もともと、低所得層には民主党の支持が高く、高所得層には共和党支持が多いとされる。このため、選挙では中間層の浮動票をどちらが取り込めるかが勝敗の分かれ目となる。今回の統計は、労働人口では10人に1人弱が失業していることに加えて、総人口では7人に1人が既に貧困層に陥っている現実を突きつけた。

雇用回復が遅れる状況では、中間層の労働者は、自身にもそうした状況が及ぶのではないかとの危機意識を高めている。失業者には手厚いものの、雇用回復を未だに実現出来ない現政権に背を向ける人は増加しており、このことが支持率の低下に繋がっている。中間選挙は11月2日と実施までの時間的な余裕はなくなっている。民主党の大敗予想も出るなど、選挙の結果次第では今後の政権運営に大きな影響を与えよう。
米国貧困率の推移
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