2010年09月24日

「2007年」

取締役 前田 俊之

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この夏、東京駅から一時間ほどの距離にある海辺で久しぶりに磯遊びを楽しんだ。よく日に焼けた若者が集う海岸からそれほど遠くない岩場では、水にゆれる海草のあいだを多数の魚が泳いでいた。日頃から海に接している人からすれば驚くに値しないことかもしれないが、自然にふれる機会の限られている身にとって、目の前の澄んだ海は大きな驚きであった。同じころ東京湾では赤潮が発生したとのニュースが流れていたからこの驚きは尚更である。
その東京湾も決して悪い話ばかりではない。何年か前から多摩川の水質が大幅に改善されたという話がたびたびマスコミに取り上げられている。高度経済成長期の1960年代から70年代にかけて多摩川にかかる橋脚は洗剤の泡にまみれていた。その姿を記憶に残す世代の一員としては、俄かに信じられない思いでこの話を聞いていた。しかし2007年に東京都が行った遡上調査によれば214万尾の稚アユが確認されたとのこと。その翌年にも139万尾を記録しているという。こうした成果に至るまでには流域の関係者のたゆまぬ努力があったことは想像に難くない。時間をかけて努力すれば自然環境を変えることも決して不可能ではない好事例と言えるだろう。
その一方でこの世の中にはやはり気がかりなことも多い。今年の夏は国内の各地で異常とも言える天候が続いた。東京でも一日の最高気温が35℃を超える日が多数観測されている。このような日を「猛暑日」と呼んでいるが、この言葉が正式な気象用語に採用されたのは2007年4月と比較的最近のことである。その年この「猛暑日」は2007年度流行語大賞のベスト10に選ばれている。それほどインパクトのある言葉であったことが窺える。因みにその年の大賞は東国原宮崎県知事の「どげんかせんといかん」とゴルフの石川遼選手の「ハニカミ王子」に与えられている。その後のお二人の精進は目覚しく喜ばしい限りだ。しかし、地球温暖化に対する有効な対策が見えていないなか「猛暑日」の活躍は遠慮したいところだ。
実は2007年の流行語の中に「猛暑日」のほかにもう一つ歓迎しかねる言葉が並んでいる。それは「消えた年金」だ。5,000万件にものぼると言われた年金の未統合記録は当時大きな政治問題となった。
その後の関係者の努力により未統合記録はこの9月現在で3,598万件まで減少しているが、依然としてその数は膨大である。しかも問題はそれだけにとどまらない。最近の消費税問題でも明らかになったように、将来にわたる公的年金の財源論は白紙に近い状態にある。このままでは記録だけでなく原資までも「消えて」しまいかねないとの不安は根強い。年金制度を巡ってはさまざまな議論がなされてきたものの、前回の制度改正以降に顕在化した問題は何も解決していないと言っても過言ではない。地球温暖化と年金制度、いずれも問題の本質は見えているものの、なかなか解決策を見出せない点でよく似ている。しかし、どちらもこのまま手をこまねいているわけにはゆかない。「猛暑日」と「消えた年金」がたびたびマスコミを賑わすことのないよう、あらためて我々一人ひとりがこれらの問題に関心を持って臨まねばなるまい。

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