コラム
2010年08月11日

社会保障制度改革のカギとなる送りバントの精神

桑畠 滋

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記録的な猛暑が続く今夏も49代表による全国4028校の頂点を決める第92回全国高校野球選手権大会が甲子園球場で始まっている。ここ5年ほどはテレビ観戦を余儀なくされているものの、私は時間に余裕のあった学生の頃には甲子園球場に足を運び球児達の一挙手一投足を追いかけていた。彼らの全力プレーの中でも特に心を熱くするのは、送りバントである。野球選手である以上、ましてや甲子園に出場するような強豪チームの選手ともなれば、プロのスカウトが注目する前で、長打を打ってアピールしたいと誰しもが思うだろう。だが、彼らはそうせず、確実に送りバントを決め、次の打者のために好機を広げようとする。彼らは自己を犠牲にすることを厭わない。それがチームの勝利に繋がり、結局は自分のためでもあるからだ。

近年、少子・高齢化を背景として社会保障費の膨張が続いている。2010年度の国家予算においては、年金・医療等の経費に充てられる社会保障関係費が初めて一般歳出の50%を超え、2011年度予算でも1兆3000億円程度の自然増加が見込まれている。社会保障関係費の膨張は財政赤字拡大の一要因となっており、負担は国債発行という形で将来世代に先送りされている。

年金・医療等の社会保障制度は、世代間扶養の仕組みとなっており、少子高齢化により高齢者数が増加する一方で現役世代は減少していくことから現役世代一人当たりの負担額の増加が続いている。一方、給付の抑制は一向に進展していない。2004年の年金改正で給付の伸びを抑制するマクロ経済スライドが導入されたものの、物価上昇、賃金上昇を想定していた制度であるため、物価の下落が続く中では効果を発揮できずにいる。今後現役世代の更なる負担増加に繋がる可能性もあるだろう。また、負担は受け皿となる現役世代が先細りしていくことから、若年層になるにつれて大きくなる傾向があり、高齢層と若年層の受益・負担の格差は拡大している。内閣府によれば、受益・負担の格差は世代間により数千万円に上ると試算されている。

高齢者への給付を削減せずに、現役世代への負担の増大を強いる現在の社会保障制度は、遠くない将来、若年層からNoを突きつけられることになるだろう。日本年金機構により公表された2009年度の国民年金保険料の未納率が40.02%と過去最悪を記録し、20代の未納率が50%を超えたのは若年層からの警告と受け取るべきである。

若年層が求めているのは公平性の観点から納得できる社会保障制度の構築である。若年層に負担増を強いるなら、当然高齢層にも給付減額など相応の負担を求めるべきであろう。高齢層に求められるのはやや強引ではあるが、次世代への送りバントの精神ではないだろうか。
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桑畠 滋

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