コラム
2010年08月10日

「消えた高齢者」と終身年金

  明田 裕

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「消えた高齢者」の問題が連日マスコミで報道されているが、その背後にあるのは年金の問題であろう。

周知のとおり、わが国の公的年金(老齢年金)は「終身年金」であり、受給者が生きている限りいつまでも年金が支払われる。これは、受給者の生活資金の必要性に見合った極めて合理的な仕組みであると考える。

ただ、制度の公正を保つ上では、当然のことながら、受給者が「生きている」ことを適切に確認する仕組みが必要である。報道を見ると、わが国の場合、「生きている」という要件は積極的な立証を要するものではなく、住基ネットで(死亡届が出されていないことにより)消極的に確認される仕組みとなっているようである(以前は年1回「現況届」の提出が求められていたが、住基ネットの整備に伴い2006年に原則廃止)。

現在、各地方自治体で、100歳以上の方約4万人の確認作業が行われているが、今明らかになってきていることは氷山の一角のように思える。身元の判明しない死亡者は全国で年間1000名を超え、累計では17000名に達するし、一方で家出人捜索願の出ている70歳以上の人は12000名にのぼるという。これらを考え合わせれば、100歳未満の層で、相当数の年金不正受給が生じている可能性がある。

現在100歳以上の人が現役の頃の年金制度は発展途上だったので、受給額もあまり大きくはない(今回最初に発覚した2件の場合、本人の年金は低額の老齢福祉年金で、金額が大きいのは、古くから年金が充実していた公務員たる配偶者の遺族年金であったという)のに対して、たとえば、現在70-80歳代の人の受給する年金水準は非常に高い。受給者たる高齢者の所在が分からなくなってしまったときに、家族が年金を受給し続けようという気持になったとしても不思議はない(「現況届」の提出というアクションが求められた当時は抵抗があったろうが、何もしないということなら心は痛まない)。

年金について、受給者が「生きてそこにいる」ことを確認した上で支払う仕組みに変えていくことが考えられないだろうか。もちろん、年金だけのために確認を行うというのはたいへんだろうが、医療や介護のサービスの適切な提供、高齢者虐待や孤独死の防止といった点を含め、地域で高齢者をサポートするといった見地から検討すればよい。テレビ番組で毎日ヤクルトを配達して高齢者の状況を確認するというある地方自治体の取組が紹介されていたが、それも一法。近所づきあいや親戚づきあいが希薄になった今、高齢者と子どもについては、余計なお世話といわれようとも、行政や地域が少し「お節介」になった方がいいのではないだろうか。

明田 裕

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