コラム
2010年06月30日

改正臓器移植法の施行と脳死判定

小林 雅史

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2009年の「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)の改正により、2010年1月17日から親族への臓器の優先提供が可能となっており、また、7月17日から15歳未満からの臓器移植等が可能となる。

15歳未満からの臓器移植については、意思表示の確認や児童虐待を受けた児童からの臓器移植が行われることのないような措置の徹底等の課題があり、つぎのような厳格な要件が課されている。

(1)年齢に関わらず、臓器を提供する意思や脳死判定に従う意思がないことを表示した者からの臓器摘出・脳死判定は行わないこと

(2)死亡した者が未成年である場合は、父母それぞれの意向を慎重かつ丁寧に把握すること

(3)児童からの臓器提供を行う施設は、虐待を受けた児童への対応のため虐待防止委員会等を設置し、児童虐待の対応に関するマニュアル等を定め、虐待が行われていたか否かを確認すること

(4)年齢に関わらず、脳死判定には二回の確認を要し、第一回目の確認後、6時間経過後に第二回目の確認を行うこととなっているが、6才未満の者については第二回目の確認を24時間経過後にする等、児童向けの脳死判定基準を整備 等

さらに、同様に意思表示について課題のある知的障害者等の取扱いについては、改正臓器移植法の国会での審議において、
「A案(筆者注:臓器移植法改正案)では、知的障害者など意思表示ができなかった人が家族の同意によって脳死が確定し臓器を提供することになってしまうのではないか」

との質問に対し、提案者より、
「A案は現行法とまったく同じでございます。そのことにつきましては、知的障害のある方あるいはその他の意思表示ができなかった方につきましては法的脳死判定を見合わせるということになっております」

との回答があったことを受け、改正「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(ガイドライン)」で、
「知的障害者等の臓器提供に関する有効な意思表示が困難となる障害を有する者については、その意思表示等の取扱いについて、今後さらに検討すべきものであることから、主治医等が家族等に対して病状や治療方針の説明を行う中で、患者が知的障害者等の臓器提供に関する有効な意思表示が困難となる障害を有する者であることが判明した場合においては、年齢に関わらず、当面、その者からの臓器摘出は見合わせること」

一方、臓器移植の前提となる脳死判定については、上記のとおり二回の確認を要し、その後主治医により死亡診断書が作成され、臓器摘出が行われるが、この点について、厚生労働省の「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」で、
・「臓器の移植に関する法律」の規定に基づき脳死判定を行った場合、脳死した者の死亡時刻は、第2回目の検査終了時となります。したがって、死亡した年、月、日および時、分は、脳死判定に係る検査の第2回目の検査終了時刻を記入します

と説明されている。

現在、損害保険会社の医療保険の約款では、
・脳死判定後の身体への処置が、臓器移植法附則第11条の規定により医療の給付とみなされた場合は、入院日数に算入する

とする例があり、脳死判定後の処置の日数についても、入院給付金が支払われる模様である。

今後の臓器移植の動向や保険業界の対応等について、引き続き注視していきたい。
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