コラム
2010年06月22日

新成長戦略は日本経済を蘇らせるか?~第一+第二=第三にはならない~

櫨(はじ) 浩一

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1.第三の道の模索

菅内閣は6月18日、「新成長戦略」を閣議決定した。これは昨年12月に当時の鳩山内閣で菅総理が、国家戦略担当大臣・副総理として取りまとめた「新成長戦略(基本方針)」を具体化したものである。菅総理は、この新成長戦略と財政赤字縮小の姿勢を示す中期財政フレームを携えて、今後のサミット、G20に臨むことになる。

基本方針では、これまでの経済政策が採用してきた、公共事業中心の経済政策という第一の道、行き過ぎた市場原理主義に基づき、供給サイドに偏った生産性重視の経済政策という第二の道、このいずれでもない第三の道を目指すとされていた。建設国債の発行による公共事業の増加や赤字国債の発行による減税や給付金は、景気浮揚効果はあるが、財政赤字による政府債務の累積を招いており、持続性の問題があることは明らかだ。こうした第一の道の限界が意識されたからこそ、規制緩和や民営化による生産性向上という第二の道の考え方が出てきたわけだ。第二の道による成長戦略で一時は日本経済は立ち直ったかに見えたが、リーマンショックのような海外経済の落ち込みに対して脆弱だという内需の弱さや格差の拡大や雇用の不安定化という問題が目立つようになっている。第三の道が模索されるのは、当然の流れである。

2.第一+第二=第三にはならない

新成長戦略は、「生産性の向上は重要であるが、同時に需要や雇用の拡大がより一層重要である」と述べているが、果たして第三の道を提示するという課題に応えているだろうか?残念ながら、新成長戦略から菅総理の考えている第三の道がいったいどのようなものなのか、明確な考え方を読み取ることは難しい。

新成長戦略が述べているように、社会保障には雇用創出を通じて成長をもたらす分野が数多く含まれており、社会保障の充実が雇用創出を通じ、同時に成長をもたらすことが可能である。菅総理は、増税しても使い道を誤まらなければ経済成長に役立つと言っているが、これが負担を増やしても子供手当てなどの社会保障を増やせばGDPが増えるという意味なら、それは国民負担の増大を招く第一の道と同じだ。

新成長戦略が掲げる「21の国家戦略プロジェクト」は供給面の対応がかなり具体的で詳しいのに対して、内需の拡大策は第一の道型の事業を除けば具体策に欠ける。需要面の対策の中でも、急拡大するアジアの需要の取り込みなど、規制緩和や生産性の向上による外需拡大という、第二の道と同じ考え方も随所に見られる。

新成長戦略は、第三の道を模索したものと言いながら、残念ながら、第一の道と第二の道の継ぎ接ぎの様相を示していると言わざるを得ない。1+2=3という単純な足し算はここでは成立せず、第一の道に第二の道を加えても第三の道にはならない。今回の新成長戦略のような、網羅的な政策リストではなく、第三の道による経済成長の姿を具体的に示す必要がある。筆者は、第三の道の一つの候補は、これまでの生産優先の考え方を捨てて、消費優先へと経済政策の考え方を大きく転換することだと考えているが、それについてはまた別の機会に詳しく述べたい。

3.問われる政治的リーダーシップ

さて、新成長戦略(基本方針)では、過去10 年間だけでも10 本を越える戦略が世に送り出されながら日本経済が低迷を続けていることについて、その原因は「失敗の本質は何か。それは政治のリーダーシップ、実行力の欠如だ」と喝破している。「21の国家プロジェクト」には「幼保一体化」が18番目の項目として登場するが、これこそ、それぞれの団体、関係者、所管省庁のしがらみを押し切る政治的なリーダーシップが問われる課題だ。鳩山内閣では、普天間基地問題など、政治的なリーダーシップの問題が大きかったが、菅内閣がこの問題を克服できるのか、試金石となるテーマと言えるだろう。
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