コラム
2010年06月09日

放送技術の研究開発と超高齢社会

社会研究部 准主任研究員   青山 正治

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5月末の週末3日間にわたり、NHK放送技術研究所の「技研公開2010」が開催された。毎年恒例の「技研公開」であるが、今回は技研開所80周年にあたる。開所の1930年(昭和5年)より日本の放送技術研究の先導的役割を担っている同研究所の、最先端や開発途上の研究成果を見学することができる。本年は44件の展示があったが、一般人にとってそれら個別タイトルは難解でもある。しかし、有難いことに各展示とも担当研究員が門外漢にも分かりやすく、かつ専門家向けの非常に高度な解説にも対応してくれる。このため、一般のファンも多く、雨が降り出しそうな空模様の中、老若男女を問わず幅広い年齢層の人々や家族連れで賑っていた。さて、その展示内容の中で印象に残った最先端技術の感想を記したい。

今回の展示の中で、個人的に強く印象に残ったのが、開発中の次世代ハイビジョンであるスーパーハイビジョンで、プロジェクターを使い450インチの大型スクリーンに映し出す「スーパーハイビジョンシアター」であった。24個のスピーカーを使った新開発の音響システムにより、3次元で音源やその移動が認識できる。上映は数分間であったが、オーケストラの演奏シーンや東京マラソンの東京都庁前のスタートシーン、さらにフィギュアスケートの演技や紅白歌合戦の模様が上映された。そして、何よりも圧巻であったのは高精細映像と3次元の音響システムによって再現される各シーンの圧倒的リアリティ感である。フィギュアスケートや紅白の会場席に座っているような錯覚にとらわれ、スケートリンクや舞台の空気までもが流れ込んでくるような印象であった。この内容はシアター向けのスーパーハイビジョンの技術開発であるが、家庭用の機器や放送技術の開発が進展しており、計画では2020年に衛星を使って試験放送が開始されるという。

これら来場者を感嘆させる数多くの放送技術のほかにも、聴力の衰えた高齢者向けの番組で、背景の騒音などを減らして高齢者に聞きやすくする技術や、大学などと共同で視聴覚障害者向けの技術開発として放送と小さな樹脂製の突起が持ち上がる点字のドット表示装置を組み合わせた点字や地図を表示するシステム機器などが展示されていた。さらに日本語が手話へ翻訳され、画面内の人物のCG画像が、手話で内容を伝える技術開発などの展示もあった。このほかにも小型アームの先に付いたペン状の装置で画面内のポインタを操作して、画面に表示されたリンゴや洋ナシのCG画像にポインタが触れると、その形状や表面のザラザラやツルツルした感触が握ったペン状の装置にフィードバックされるという開発途上の技術などが展示され、多くの人々の関心を集めていた。これらはまさに情報のバリアフリー化を目指す、社会的に意義ある研究である。これらNHK技研の今後の研究開発に注目したい。

日本社会は超高齢社会の時代を迎えたが、今後10~20年のうちに世界中で超高齢社会を迎える国々が増加してくる。個人差はあるものの高齢期は体の感覚器官の機能低下により、様々な形態の情報から徐々に隔離され始める時期でもある。一般論として、人は情報獲得の8割を視覚認識に依存しているといわれ、映像だけでなく音声情報についても、高齢者などの身体状況に適した情報提供の手法が必要とされる。これらの点では技術的な研究開発と同時に、ハードウェアの背景にあるソフトウェアや人と接する面にあるインターフェイスの開発や改善も重要な点である。それらの点で、高齢者の加齢に伴う心身の変化や高齢期のライフスタイルなどを多岐にわたって学際的に研究するジェロントロジーの知見を活かすことは、将来的にそれら新技術の超高齢会社会への普及や浸透を促進するものと思われる。

前述の技術開発は、スーパーハイビジョンのような華やかさはないものの、世界的に進行する高齢化により、将来的に大きく注目される時代が来るのではないだろうか。人類は加齢に伴う心身の機能低下から逃れることはできない。将来的に、前述のような様々な技術の飛躍的進歩によって、情報のバリアフリー化が実現されることは、今の若い世代にとってもやがて福音となろう。

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社会研究部   准主任研究員

青山 正治 (あおやま まさはる)

研究・専門分野
少子高齢社会・社会保障

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