コラム
2010年05月17日

日本の財政赤字はギリシャと違うか?

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

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1.動揺する欧州経済

ギリシャの財政危機に端を発した混乱で、各国の金融市場では株価が大幅に下落した。これに対してIMFとユーロ圏各国は合計1100億ユーロにのぼるギリシャ支援を決めている。財政破綻の懸念は、ポルトガルやスペインなどにも波及し、EUはユーロ導入国が財政危機に陥った場合に備えて、IMFと共同で7500億ユーロ(約89兆円)の緊急融資制度の創設を決定した。またECBはユーロ圏の国債を購入するという異例の措置を決定している。
   ギリシャは1999年のユーロ発足には参加条件を満たせず乗り遅れ、一足遅れて2001年に参加した。しかし振り返ってみると、実際には財政赤字がGDPの3%以下というユーロへの参加基準を満たしたことは無かったことが分かる。もっともユーロへの参加条件を定めたマーストリヒト条約の、政府債務残高をGDPの60%以内に維持するという条件は、イタリアも100%を超える水準が続いていて特例の適用を受けているなど、各国とも叩けば埃が出る身で、大きなことは言えた義理ではない。
   今回ユーロ防衛のために異例の国際協調体制ができたにも関わらず、金融市場の混乱は収まっていない。問題解決のカギはギリシャが財政赤字を削減することで、増税や歳出削減に対するギリシャ国内の反発を見ると、事態が本当に沈静化するまでには、まだ紆余曲折が予想される。

2.日本とギリシャの違い

日本にとってギリシャの危機は決して対岸の火事ではない。財政赤字が大きいという点では、日本もギリシャも大差はない。債務残高のGDP比で比べると、日本が200%近いのに対してギリシャは100%強と、むしろ日本の方が悪い。
   こうした状況にも関わらず、ギリシャ国債の金利が急上昇し、影響が各国に波及する中で、日本の長期国債金利は一時1.2%台へと低下するなど財政赤字を懸念した金利上昇の動きは見られない。日本とギリシャの大きな違いは、日本は経常収支が黒字であるのに対して、ギリシャはGDP比で2桁に達する赤字であることだ。これはギリシャが海外からの資金に頼っているのに対して、日本は国内の貯蓄だけで財政赤字をまかなって、さらにお釣りが出る程だということを意味している。
   しかし日本が海外からの資金に頼っていないことは、財政危機がより起こり難い理由だが、いくら財政赤字が拡大しても国内での資金調達に問題が起こらないという訳ではない。それに日本の経常収支黒字も、高齢化が進めば家計貯蓄率が低下して無くなってしまい、国内の資金だけではまかなえなくなる恐れが大きい。

3.日本のジレンマ

ギリシャ問題で揺れる欧州各国の消費税率は20%程度だが、高齢化率がこれらの国々よりも高い日本が5%の消費税率でやっていけるはずがない。欧州並みの社会保障を提供しようとすれば、もっと高い税率が必要だ。どの程度まで消費税率を引き上げる必要があるのかは、国民が望む社会保障の水準とのかねあいで決まる。財政赤字削減のためには消費税率の引き上げは避けて通れないが、しかし今すぐに大規模な増税や歳出削減で財政赤字の縮小に取り組んでも経済をさらに冷え込ませてしまい、結局財政再建の成功は覚つかない。ここに日本経済のジレンマがある。
   金融市場の反応は気まぐれだ。ギリシャの財政危機のように、今までそれほど話題にならなかったことが、ある日突然問題として注目され、市場を大きく動かすこともある。金融市場が日本の財政赤字にいつ反応し始めるのか、誰にも予想はできない。いつ湧き上がるか分からない金融市場の不安を防止するために、政府は財政赤字の削減にはっきりとした方針を打ち出すべきだ。6月には中期財政フレームが取りまとめられることになっているが、そこに求められるのは消費税率引き上げの国民的な合意を目指すことを宣言し財政赤字削減への道筋を示すことだろう。

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経済研究部   専務理事

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野
マクロ経済・経済政策

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