コラム
2010年04月30日

上海万博と中国の消費トレンド

三尾 幸吉郎

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いよいよ上海万博が開幕します。246カ国・国際機関が参加する上海万博は、公式PRソングや公式マスコットの盗作疑惑、市民を動員したリハーサルでの混乱、通行許可証の偽造事件等、直前になって祭典の盛り上がりに水を差す報道が多くなりましたが、10月31日迄の半年に及ぶ開催期間中の来場者数は1億人を超えると見込まれ、国際博覧会史上最多の観客動員となるのはほぼ確実と見られます。

日本からも「心の和、技の和」をテーマとした日本館、「日本が創るより良い暮らし」をテーマとした民間企業の日本産業館などの出展があり、事前調査では日本が出展するパビリオンの人気は上々のようです。また日本の「平城遷都1300年祭」に展示された遣唐使船が5月8日に大阪港を出港して6月12日に予定される上海万博のジャパンデーに登場するのも、日中の長い歴史的な結び付きを想起する絶好のイベントになりそうです。

今回万博が開催される上海市は、人口1888万人(2008年)と日本の東京都より一回り大きい都市で、昨年の域内総生産は1.49兆元(約20兆円)と中国GDP全体の4.5%を占めます。上海万博の総事業費は286億元(約3800億円)、関連施設を含めた総投資額は日本円換算で5兆円にのぼるとされ、空港の拡張や地下鉄整備等のインフラ建設は、上海市の域内総生産をここ数年に渡り押し上げてきました。他方、来場者等による消費は、実際に上海市に人が集まるこれからが本番ですが日本円換算で数兆円程度と、経済規模が大きくなった中国経済(2009年の名目GDPは約450兆円)全体に与える影響はそう大きくは無さそうです。

上海万博の消費効果として注目しているのは、短期的な消費の増加より長期的な消費トレンドの転換です。日本で1970年に開催された大阪万博では、6421万人の来場者のうち外国人は約170万人と3%に届かず来場者の多くは日本人であり、日本人が海外の最新技術や文化に触れる絶好の機会でした。また、大阪万博では当初は比較的少なかった来場者数が、新聞、雑誌、TV、そして人伝による評判の高まりによって増加傾向を辿り、動く歩道、ワイアレスフォン、缶コーヒー、ファストフード、旅行や娯楽をエンジョイする消費文化などが日本に根付く契機となりました。マクロ経済統計を見ても、高度成長期に徐々に低下していた名目GDPに占める民間消費の割合が、大阪万博の1970年に約52%で底打ちして増加に転じ、10年後の1980年には59%に割合を高める起点となりました。

現在の中国経済は、長年の高度成長で一人当たりGDPは3000ドルの大台を超え(日本で3000ドルを超えたのは1973年)、投資主導の経済成長でGDPに占める消費割合が低下、貿易黒字増大から自国通貨の切上げ圧力が高まる等、当時の日本の経済環境と類似する点が多く消費トレンドが転換する基礎的条件は整っていると思われます。従って、上海万博に多くの中国国内の人々が集まり、諸外国の最先端の技術や文化を直接目で見て肌身で実感することになれば、中国の消費文化が発展する契機となり、10年後に振り返った時には、上海万博が新たな消費文化発展の転機だったと言える日が来るのではないかと考えています。
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