コラム
2010年03月15日

SEC(米国証取委)がコペルニクス的転換!?~上場企業に対する気候変動の情報開示「解釈指針」を承認~

川村 雅彦

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【企業経営への影響の開示】

本年1月27日にSEC(米国証券取引委員会)が、気候変動問題が経営に及ぼす影響、つまりチャンスとリスクについて、米国で上場する企業が参考にすべき情報開示の「解釈指針」を承認した(プレスリリース2010-15)。例示としながらも、情報開示の検討が求められるのは、次の4領域である。
 
  • 法規制の影響:気候変動にかかわる既存の法規制および強化が経営に及ぼす影響
  • 国際協定の影響:気候変動にかかわる国際協定や条約が経営に及ぼすリスクや影響
  • 事業トレンドの影響:気候変動にかかわる様々な要因による間接的な経営上のチャンスとリスク(例えば、温室効果ガス排出量の少ない商品の需要増の予想など)
  • 気候変動の物理的影響:気候変動に伴う経営や事業への物理的な影響の評価

【機関投資家の要求とNPOとの連携】

正式な解釈指針は2月2日に公表された。SEC委員長の談話によれば、新たな規則を作ったのではなく、位置づけとしては既存の情報開示ルールの解釈ガイドラインである。しかし、ある監査法人によると、この指針に法的強制力はないものの、米国の会計実務上は遵守されるべきルールとして認識されているようである。

実は、これには前段がある。2007年9月、カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)などの機関投資家と主要州財務担当者が連名で、SECに気候変動の情報開示に関する要望書を提出している。具体的には、投資家が適正な投資判断できるように、既存の情報開示規則に対する解釈指針の策定(見直し)を求めたのである。

この背景には、CO2排出量の削減あるいは低炭素型製品・サービスの開発などの気候変動問題にかかわるコストや投資が、企業業績や株価を左右する重要な投資の判断材料となってきたとの認識がある。従来型の財務データだけでは将来に向けた正しい投資判断ができない、という危機意識の表れでもある。

当時のブッシュ政権下ではSECに動きはなかったが、政権交代によりオバマ大統領が登場して状況は変わった。米国のNPOであるSIF(社会的責任投資フォーラム)は、2009年1月に大統領とSEC委員長に対して、企業に気候変動などの情報開示を義務付けることを求める嘆願書を出した。これを受けて、SEC内で正式に協議されることになったのである。

【日本企業に求められる真の国際競争力】

昨年12月のCOP15(気候変動枠組条約の第15回締約国会議)では2013年以降の国別CO2削減目標の義務化に至らず、次回へ持ち越された。気候変動防止に向けた国際協定の難しさを物語っているが、新聞報道によれば、この時多くの日本企業には安堵感が広がったという。これが本当ならば、日本企業の真の国際競争力を殺いでしまうことが懸念される。欧米に限らず新興国でも、国レベルでは世界のイニシアチブをとるべく官民連携によるグリーン化政策が懸命に進められている。

「Change before you have to change !」これは米GE社のCEOを務め「伝説の経営者」と呼ばれたジャック・ウェルチの言葉である。要は、決まってから動くようでは手遅れ、ということであろう。上場企業に対する気候変動情報の開示義務化は時間の問題である。21世紀型の低炭素経済に向けてパラダイムが大きく転換しようとしている現在、従来の成功体験や価値観で判断することは危険である。日本企業の先見性・戦略性に期待したい。
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