コラム
2010年03月09日

全国型公募地方債の条件決定に対する新しい取組み

金融研究部 年金総合リサーチセンター 年金研究部長   德島 勝幸

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全国型公募地方債の起債方式には様々なものがあり、公募普通社債や財投機関債のように、ほぼ定式化された形に落ち着いていない。これは、固定された引受シンジケート団による10年債の引受が歴史的に一般的であったところ、超長期年限での公募地方債の募集がはじまった頃に、公募普通社債や財投機関債等と同様の主幹事方式による起債運営が導入されたためである。

財投機関債の発行条件決定においては、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構が10年物の財投機関債で入札方式によるものを残している。公募地方債でも、部分的なものを含めて、幾つか入札方式を採用している地方公共団体が存在する。公共セクターの一部には、公募競争入札による決定がもっとも公平であるという誤解が残っているようである。実際のところ、公募競争入札は随意契約による不正の排除と言う意味において有効であるが、時として1円入札のような弊害が生じるのも事実である。特に、債券の発行条件の決定において、引受手数料の存在する入札方式の採用は、落札証券会社が引受手数料を吐き出す覚悟で割高な水準での落札を図ることから、市場実勢から乖離した入札結果を招くことが多い。引受手数料を投資家に販売する際の値引き原資として用いるのは自由であるという見方もあるが、結果として市場実勢を歪ませる可能性があり、その公募地方債を募集した地方公共団体の評価を貶めることにも繋がるのではないか。また、入札方式の場合は、需要の強い局面でこそ低いコストでの起債が可能になるが、逆に需要が乏しい局面では、十分な投資家の需要が集まらずに割高な調達となる可能性もある。入札方式では、局面によって価格が大きく変動するというリスクを認識しておくべきだろう。

公募地方債発行団体の中で、規模の面でも起債運営の面でもリーダーと目される存在が東京都であることに、異論を挟む市場参加者は居ないだろう。東京都は、公募地方債の募集に際して、中期債や超長期債においては、主幹事方式を採用しているが、元来の主軸年限である10年債においては、定例の引受シンジケート団を存置してプレマーケティング方式による条件決定が行われている。多くの証券会社を主幹事証券候補とする公募普通社債や財投機関債と同様の主幹事方式を採用する中で、10年債のみがメガバンク等の銀行をも含む旧態依然とした引受シンジケート団運営を残しているのである。

今年度の引受シンジケート団運営においては、東京都の指定金融機関であるという経緯から、みずほコーポレート銀行が事務取扱の年間代表幹事となり、その他に、銀行・証券(外資系を含む)の合計18社が入っている。このように数が多いのは、三大メガバンクグループから商業銀行・信託銀行・証券会社といった複数のエンティティが加わっていることもあるが、その他にも、準大手証券が入っていたり、ゆうちょ銀行が入っているためである。中期債の主幹事候補にも同様に準大手証券が入り、超長期債の主幹事候補には外資系証券が入っているものの、いずれも証券会社のみである。

東京都は、この2月17日に発行条件を決定した第679回の10年債より、従来のシンジケート団プレマーケティング方式に基づく部分と、主幹事方式的な運用による投資家の需要積上げ部分とに分離した起債運営を行っている。もっとも、発行条件を二つに分けるのではなく、引受シンジケート団から上がってくる市場実勢と、需要積上げ部分を担当する証券会社からの情報とを勘案して条件決定している。第679回の募集に際しては、500億円の発行予定額のうち、300億円を従来方式によるものとし、200億円の積上げ部分に関しては、日興コーディアル証券及び三菱UFJ証券の二社を主幹事的な役割を担うものとして指名した運営が行われている。

公募地方債の発行条件設定に際して、先進的な取組みを行ってきた東京都が、ついに10年債の条件決定に際して、旧態依然の引受シンジケート団運営に新たな取組みを導入したことは、将来の完全な主幹事方式に向けた転換点となるのかもしれない。公募地方債の国債対比スプレッドが更にタイト化してしまうと、投資家の地方債に対するニーズが消失してしまう可能性がある。いかに的確に市場実勢を把握し、投資家や市場参加者の声を聞くかということを意識しておかなければ、突然公募地方債が消化できなくなって、市場において悪名を轟かせることになる危険性があることを、地方公共団体は常に肝に銘じておくべきだろう。

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金融研究部   年金総合リサーチセンター 年金研究部長

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)

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年金・債券・クレジット・ALM

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