2010年02月24日

日本企業の利益構造と競争力:長期的な付加価値生産力の低下に関して

京都大学経営管理大学院 川北 英隆

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この20年近く、日本経済は名目ベース(金額ベース)での成長が止まっている。また、純輸出(輸出−輸入)は落ち込み気味である。
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製造業の売上高付加価値率(売上に対する「営業利益、人件費、減価償却費の合計」の比率)は、かつては好況時に上昇していたが、2002年から07年には低下が続いた。一方、売上高営業利益率は、2002年を底として07年まで、人件費が抑制された効果があって上昇した。とはいえ、この間の売上高営業利益率の上昇を日本経済全体から評価すれば、企業が生産した付加価値の分配方法が変化したにすぎない。企業利益増大の背後に消費の停滞があったことを思い起こせばいい。日本経済とすれば、企業の売上高付加価値率の低下が最大の問題である。
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製造業の売上高付加価値率の低下は日本企業の国際競争力の低下と関係が深い。実質実効為替レートが売上高付加価値率にどのような影響を与えるのか分析した。それによると、実質実効為替レートが円高方向に変化した場合、売上高付加価値率が上昇すると判明した。逆に、為替レートが円安方向に変化した場合、売上高付加価値率が低下することになる。1990年代半ば以降から続いている円安局面において売上高付加価値率が低下していることは、円安を利用してドル建て輸出価格を引き下げ、輸出量の維持を図った結果だと考えられる。潜在的な日本製品の競争力が低下し、現実の外国為替市場で円安が実現したことによって、売上高付加価値率の低下が最小限に食い止められてきたのではないだろうか。
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日本企業の競争力の向上と付加価値生産性の回復を図り、その果実を従業員に分配できてはじめて、日本のデフレの問題は解決に向かうだろう。もしくは、日本企業の海外での生産活動を積極的に支援し、そこで生み出された果実を日本に持ち込むことを考えなければならない。

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