2010年02月24日

都市経営におけるジェロントロジー導入の意義 ~都市経営と高齢化等に関する研究領域の体系化に向けて(その1)~

社会研究部 土地・住宅政策室長   篠原 二三夫

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本来、長寿は社会・経済・文化に一定の幸と富、知財の蓄積をもたらすはずであるが、現実の高齢社会では、家計や市町村等の行政機能等の負担は増え、豊かな市民生活や地域社会の安定が維持しにくくなるような面も現れている。本研究では、我が国が直面する超高齢社会における適切な長寿策のあり方を追求するために、行動科学や社会学として発展してきたジェロントロジーの考え方(1)を、長寿策を展開する都市経営(2)にあてはめ、体系的にまとめること目標としている。
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本論(その1)では、まず我が国の地方公共団体の人口高齢化と都市経営の関係を既存データから概観するとともに、今後のケーススタディに備え、豊かな長寿のための都市経営につながる課題や方向性を検討する。現時点で想定可能な仮説は、高齢者のために多くの支出を行う都市経営が必ずしも都市に住む高齢者にとって望ましいものではなく、バランスのとれた財政支出とともに、高齢者がその他の人々との関わりに参加でき、充実した長寿を過ごせるように誘導する都市経営こそが、超高齢社会において目指すべき方向性ではないかというものである。
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現状をみると、我が国の65歳以上の老年人口比率(以降、「人口高齢化率」という)は2008年時点で22.1%である。2015年には4人に1人、2035年には3人に1人が65歳という状況となる。75歳以上の人口比率も2055年には26.5%、4人に1人という状態に達する見通しである。この時、人口高齢化率は40%を超え、いびつな人口ピラミッド形状をもった超高齢社会を迎えることとなる。我が国の人口高齢化の水準は、既に2005年には20.1%に達し、主な先進国を上回っている。
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平成の市町村合併が進む中、市町村の人口高齢化は1998年から2008年までの10年間に、中山間部を中心に上昇するとともに、大都市においても20%を超す状況になっている。2008年において人口高齢化率が50%を超える市町村は6件、40%を超えるのは60件という状況にある。
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全国市区の人口高齢化率と財政力指数との関係をみると、両者には負の相関(R2=0.58)が認められる。2002年から2007年にかけて総歳出額が13.6%しか増えていないにも関わらず、社会福祉や老人福祉、児童福祉費など高齢・少子化対策からなる民生費は34.8%も増加し、その他の費目の削減や債務負担につながり、今後の都市経営を難しくしている。
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2008年度(第6回)「全国市区の行政比較調査データ集」による行政サービス度を用いて、高齢化との相互関係をみると、人口高齢化は行政サービス度の低下をもたらす傾向が認められる。一人当たりの高齢者福祉費は、高齢化の進展により予算制約を受けるためか、市区によって5~10万円の水準に最も分布している。一人当たりの高齢者福祉費が高額でも、高齢者福祉サービス度は必ずしも上昇しない。一方、まちづくり費用や道路工事費用等と高齢者福祉サービス度との相関はないが、これは今回採用した高齢者福祉サービス度の指標に公園や道路整備などのまちづくりや整備の実施が直接的には含まれていないためである。実際の検討では、まちづくりなどの間接的な費用の効果も検討し、都市経営の指標としてみていく必要がある。
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市町村の都市経営におけるジェロントロジー、長寿策のあり方として、学識経験者によって10年以上前に検討された「長寿社会研究会」の文献が参考になる。しかし、都市経営と長寿策という取り組みは、その後の市町村合併の動きとともに姿を消し、類似の研究はほとんど行われていないようである。しかし、当時においてもある程度先駆的な課題と都市経営にかかる方向性が掲げられているように思われる。こうした方向性に加え、現段階では、想定される都市経営資源の適正配分のあり方(直接的な高齢者福祉サービスの度合いに加えて、その他の行政支出に基づく間接的な効果やボランティア・NPO活動の効果も検討する)や、高齢者の自発的な空間移動を容易にする既存の都市空間のコンパクトシティ化などの検討課題を加え、今後のケーススタディを進めていくこととする。

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社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫 (しのはら ふみお)

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

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