2009年11月25日

都市計画マスタープラン改訂の課題 -ビジョン実現型都市づくりを担う市町村マスタープランの共有化に向けた改訂プロセス-

社会研究部 准主任研究員   塩澤 誠一郎

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1992年の都市計画法改正により創設された市町村都市計画マスタープラン(以下、マスタープランと記述)は、法律上、都市計画を定める全ての市町村に策定が義務づけられており、かつ「市町村が定める都市計画はこれに即したものでなければならない」とされていることから、市町村における都市計画決定の指針として機能してきた。
また、都市の将来都市像と都市づくりの方針を示すことで、市町村が推進する都市計画の総合性・一体性を確保し、広域的な土地利用の調整を図り、住民を含めた多様な主体がそれを理解し共有することで、市町村の創意工夫による都市計画決定やそれに基づく事業に対する合意と円滑化が、さらには地区住民が主体となって取り組む地区計画等の推進が期待された。
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このような機能と役割を期待されて創設されたマスタープランは、その後多くの市町村において策定されていった。その背景には、法で策定が義務づけられているという面は当然あるが、その後の地方分権の推進による市町村への都市計画決定権限の大幅委譲や、市町村決定による制度が拡充されていったことにより、そうした制度を積極的に活用し、市町村の創意工夫により都市政策上の課題を解決しようとする市町村が増加していったものと読み取れる。実際に市町村の独自性を持った特別用途地区や地区計画策定地区が増加していったことからも市町村のそうした意志が伺え、その点でこれまでマスタープランは有効に機能してきたと考えられる。
加えて、策定には担当職員や都市プランナーの努力と創意工夫により、ワークショップなどの住民参加機会を多くの市町村が採用したことから、そこに参加した住民が中心となって、まちづくりNPOが設立されていった例が少なからずあることは策定における特筆すべき成果と言える。
一方、民間事業者による開発事業に対しては、マスタープラン自体法的拘束力を持たないため、それが市町村のまちづくりにとって小さくない影響を与えることが予想されても、マスタープランがあるということだけでは事業者がこれに従ったり、参照したりする義務はないという限界がある。つまり民間の開発事業においては、マスタープランは指針として機能していないといえる。 
ただし、従来から市町村独自の要綱に基づき、事業者との間で調整が行われ、その中で市町村が考えるまちづくりへの貢献を求めていくという取り組みがなされており、市町村によっては、それがマスタープランに基づいて行われてきたところもあろう。しかし、そうであったとしても事業者と近隣住民の間で紛争になってしまうケースがしばしば生じている。この場合、市町村と事業者の間では共有化されてきたかもしれないマスタープランに掲げた将来都市像が、開発計画として具体的に提示されたときに、住民が描いていたものとずれがあり、必ずしも共有されたものではなかったことになる。
このように、民間の開発事業に対しては法的拘束力がないこと、あるいはそこに掲げられた将来都市像が共有されていないことはマスタープランの制度的な限界であると思われる。近年このような状況を、まちづくり条例によって克服しようとする市町村が現れており、そうしたまちづくり条例では、マスタープランを他の関連する行政計画とともに、まちづくりの指針として位置付け、住民や事業者にそれへの協力や遵守を求める規定を設けている。
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以上のような成果と限界を持ちながら制度創設から17年が経過し、策定から既に10年以上経過した市町村も増えていることから、今後、多くの市町村がマスタープランの改訂を迎えると思われる。その中で、急速な人口減少、少子・高齢化の進展を背景に、直面している都市を取り巻く状況の変化に対応すべく、今後の都市づくりの方向性を見直す作業に取り組むことになろう。そしてそこでも市町村の創意工夫が求められよう。
折しも、国では、1968年以来の都市計画法抜本改正に向けた検討が本格化しており、その中では、これまでの「課題対応・問題抑制型」から「ビジョン実現型」への都市政策の転換が謳われていることから、将来都市像を示したマスタープランの役割がよりいっそう重要になると理解できる。また、多くの都市が目指すべき基本的な方向は「エコ・コンパクトシティ」であるとして、その実現には都市のマネジメントに重点を置くことが必要であるとしている。以上を踏まえて、改訂の際には今後の将来都市像をどのように描くか、そして都市マネジメントの考え方を取り込んだマスタープランをどのようにつくるのかが課題となろう。
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以上の考察を踏まえ、マスタープラン改訂の課題を筆者は次のように考えている。(1)他の政策領域と連携して、新たな政策課題に対し都市計画が何をできるかという視点からの方針の見直し。(2)地区住民の主体的なまちづくり活動に繋がるハードルの低いまちづくり制度の構築。(3)開発事業や住民によるまちづくりにおいても指針となるような制度的位置づけと、共有化。(4)民間開発に期待する姿勢の表明。(5)都市マネジメントの取り組みへの期待を提示した方針の作成。(6)マスタープランの評価・見直しシステムの構築。(7)住民・事業者等との十分な議論に基づく、将来都市像とその実現に向けた方針の共有化。(8)改訂プロセスにおけるまちづくりNPOの活用。である。
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最後に、今後のマスタープランを改訂する市町村の検討に資するよう、上記の課題を踏まえた改訂プロセスを提案する。改訂プロセスをデザインするに当たって重要なことは、改訂プロセスそのものが改訂後のまちづくりへと繋がっていくことを意識することである。すなわち、マスタープランの共有化をより強固なものにするために、住民や事業者等の関係者の参加プロセスを設ける。また、住民や事業者との協働によるエリアマネジメントやストックマネジメントに繋がる仕掛けを改定プロセスの中に組み込むというものである。

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社会研究部   准主任研究員

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

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