2009年10月23日

会計におけるリサイクリング問題

  猪ノ口 勝徳

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地球環境問題への取組は待ったなしの状況にあり、リサイクリングへの関心も高まりを見せている。ところで、会計の世界でもリサイクリング問題が注目を集めるようになってきている。ただし、こちらは環境問題とは事情が異なり、リサイクリングは必ずしも広く歓迎されているわけではない。しかし、リサイクリングが認められないと、株式の売却益を計上できなくなる可能性が出てくる。事情を追ってみよう。
トレーディング目的で保有するのではなく、子会社・関連会社株式でもない、「その他有価証券」区分で管理される株式については、貸借対照表上は時価で計上されるが、時価の変動は損益計算書には計上されず、貸借対照表の純資産の部の「評価差額」に直接計上されることになっている。このような取扱になっているのは、貸借対照表上は時価情報が有用であるが、損益情報は、実現主義に基づく「当期純利益」情報が有用であると考えられたことによるようだ。あたかも、「評価差額」は貸借対照表と損益計算書の計上額の差異を処理するための調整勘定のように見えなくもない。
一方、IASB(国際会計基準審議会)が作成する国際会計基準では、一見、日本の会計基準と同じ取扱に見えるが、実は、これを単なる「評価差額」ではなく、「OCI(その他包括利益)」という損益項目と考えているようであり、そこから議論がややこしくなってくる。
国際会計基準では、時価ベースの貸借対照表計上額の変動を「CI(包括利益)」と位置付け、損益計算書に計上される「純利益」以外のものを「OCI」としている。そして、一旦「OCI」で計上した損益を「純利益」で計上することをリサイクリングと呼び、恣意的な会計処理になりかねないとして禁止する方向を目指している。
前年度に100で購入した株式が前年度末には200になり、それを当年度に200で売却した場合、現行会計基準では、当年度に100の売却益が計上される。しかし、リサイクリングが禁止されると、前年度の「OCI」に100の評価益が計上され、当年度の損益計算書には何も計上されないことになる。経営者が意図的に売却益を計上することが、企業の財務状況を分かり難くしているとの考え方に基づくものであろう。一方、単なる時価の変動を反映した評価益と実際に株式を売却して現金を手に入れた場合では、利益の意味が異なる、という考え方もあるだろう。
この問題の根底には、「そもそも利益とは何か」という、ものの見方の違いがあるように思われる。IASBは、この問題を金融危機対応の一環として、早急に結論を出す予定にしているが、本来はもっと時間をかけて検討すべき事項であろう。環境でも会計でも、「リサイクリング問題」は重要である。

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