コラム
2009年10月22日

ジョンソン・エンド・ジョンソンのCredo経営に見る「本物」のコーポレート・ガバナンス

平賀 富一

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報道によれば、福知山線事故に係るJR西日本社の対応についての問題点を指摘する声が出る中、同社では、今後、若手社員の意見を取り入れた行動規範を制定する方針の由であり、それも含めて今回の教訓が事業経営の中で実践されることを期待したい。

そのことに関連して筆者が想起したのは、米国ジョンソン・エンド・ジョンソン(ジョンソン社)の有名な「Our Credo」(我が信条)と、全社がそれを一丸となって遵守・行動した同社の有力製品タイレノール(解熱鎮痛薬)への何者かによる毒物混入事件の際の見事な対応である。

同社自身も被害者として弁明を行うことも可能な状況にもかかわらず、Credoにおいて最優先とされる顧客の安全を第一と考え、必要な情報は全て開示し十分な対応体制を整備した上で、現役の従業員はもちろん退職した元従業員の協力も得て全ての製品を店舗から回収した勇気と行動は今なお危機管理・対応の優れた事例として高い評価を受けている。

企業の存続にもつながるリスクがあった重大な危機への的確・真摯な対応が同社に対する尊敬と信頼をさらに高めることになったともいわれている。

同社のCredoは、(1)消費者(顧客)に対する責任、(2)従業員に対する責任、(3)社会に対する責任、(4)株主に対する責任という順に述べ、事業経営への取り組みの姿勢と強いコミットメント、行動のあり方を明示しており、同社のコーポレート・ガバナンスの拠り所として極めて意義の大きいステートメントである。

同社では、常日頃から役員・従業員の一人一人がCredoの意味を考え、我が物とし、それを日々の行動に活かすために努力し、会社もそれを促す機会を積極的に提供している。

内外共に、企業理念や社是・目標、行動規範などを掲げる企業は数多いが、それらが一貫した方針に基づく具体的な行動につながらなかったり、経営者が交代すればすぐに変更されてしまうケースが多いのが実状である。

単なるスローガンや飾り物でなくそれらの精神が本当にその組織の成員に浸透し行動の中で実践されてこそ価値があるのである。

ジョンソン社のCredoは1943年に創られたものが時代の変化に合わせた部分変更はあるもののその根本は変わらず今に引き継がれている(36の言語に翻訳されている)。

さらに世界57ヶ国に展開する国際企業である同社は、76年連続で増収、25年連続で増益、47年連続で増配を達成しており、かつ全米で最も尊敬される企業の上位に常時ランクされているという事実はそのCredo経営が卓越したものであることを実証していると言えよう。

企業をめぐる各ステーク・ホルダーや社会・環境に対する企業の責任・貢献をしっかりと盛り込んだ同社のCredoは、コーポレート・ガバナンスやCSR(企業の社会的責任)、企業倫理のあり方をめぐって模索している多くの企業に対して重要なインプリケーションを与えるものであると思う。
 
 
(参考)ジョンソン・エンド・ジョンソンのCredoは以下の同社ホームページを参照。
http://www.jnj.co.jp/group/community/credo/index.html
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