コラム
2009年09月24日

経済財政諮問会議の8年半

櫨(はじ) 浩一

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1.廃止される経済財政諮問会議

2001年の省庁再編時に創設された経済財政諮問会議は、民主党鳩山内閣の下では開催されず、いずれ存在の根拠となっている内閣府設置法自体が改正されて廃止となる運命にある。経済財政諮問会議は、生まれた当時の森内閣がその後短期間で倒れ、当初はこれと言った成果はあげられなかった。諮問会議が脚光を浴びるようになったのは、次の小泉内閣の時代になってからだ。小泉内閣は、それまでの官庁や官僚主導による政策運営を、官邸主導に転換するための道具として、諮問会議をフルに活用した。民間有識者委員が提言を出して議論の方向を誘導し、最後は族議員と一体となった各省庁の抵抗を、総理の指示という形で排除するしくみとして活用されていた。しかし跡を継いだ安倍内閣以降は総理の力が低下し、諮問会議は形骸化していってしまった。

2.経済政策の司令塔はどこに?

鳩山内閣では国家戦略室担当大臣である菅副総理が経済財政担当大臣を兼ねているが、経済財政諮問会議が廃止されると、誰が経済政策の司令塔になるのか、これまで月例経済報告で慣例的に行われてきた政府としての経済情勢の判断がどうなるのかなど、不明なことだらけである。オバマ大統領就任当初に、経済情勢についてサマーズ国家経済会議(NEC)委員長のブリーフィングを毎日受けるという報道があったが、日本でも経済情勢の正確な把握と、政策の調整が欠かせないことは同じだ。

そもそも、「沖縄及び北方対策担当」、「金融担当」、「食品安全担当」、「消費者行政担当」の特命担当大臣は、必ず置かれることになっているが、経済運営や経済情勢の分析などの担当大臣は必ずしもいなくてもよいことになっているということ自体にも問題があるのではないか。

3.経済財政諮問会議の功罪

経済財政諮問会議の議論は議事要旨が公表され、政策決定過程の透明度がそれまでより飛躍的に高まったことは評価されよう。一方官邸主導型の意思決定のやりかたは、世論の振り子が「構造改革」から反対側に大きく振れる原因ともなった。諮問会議の民間有識者委員4名が、財界人2名と経済学者2名という構成だったことも問題ではなかったか。経済財政諮問会議の創設によって廃止された経済審議会は、消費者団体や労働組合など幅広い層の代表が参加していたのに比べれば偏っており、政策議論が一方方向に進む一因となったのも確かである。

旧来型の審議会は、官僚主導の政策決定の隠れ蓑として利用されてきたという批判があり、国民に選ばれない有識者の審議会よりも、国民に選ばれた国会議員による政策決定の方が責任の所在が明確だという考え方もあろう。しかしこの一方で、選挙は数年に一度行われるに過ぎず、しかも投票者は包括的な信任を与えたに過ぎないのも確かだ。個々の政策について国民各層の幅広い意見を集約する仕組みと、政策決定過程を透明化することは必要だろう。

「新しい酒は新しい皮袋に」ということわざもあるように、民主党政権になって、自公連立政権下とは政策が変わるだけではなく、政策決定の仕組み自体が大きく変わろうとしている。何しろ初めてのことばかりなので、しばらく多少の混乱があるのは止むを得ない。今後、国家戦略局による政策決定が、どのような体制や手続きで行われることになるのか、注目したい。
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