- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 日本経済 >
- 新型インフルエンザ問題に見る必要な無駄と本当の無駄
コラム
2009年09月08日
1.地下鉄サリン事件と聖路加国際病院
新型インフルエンザは予想より早く感染が拡大しており、流行の激しい地域では医療がパンクしそうだという。これを見ていて、しばらく前のことだが、NHKのテレビ番組で1995年に起こった地下鉄サリン事件で聖路加国際病院が被害者の治療に大きな役割を果たしたことを取り上げていたのを思いだした。だいぶ昔の番組だったと思うので、記憶違いの部分があるかも知れないことを予めお詫びしておく。
地下鉄サリン事件の際に、聖路加国際病院は多数の被害者の治療にあたった。救急隊員の機転や、外来診療を中止して被害者の治療に専念するという病院長の決断、松本で起こった事件の関係者との連携、病院スタッフの使命感の強さなど、関係者の対応はすばらしかった。この番組で特に印象に残っているのは、聖路加病院を建て直した際に、緊急時に救急患者の受け入れができるように、予め設計されていたという話である。病院の待合室や礼拝堂に至るまで、いざというときのために壁に人工呼吸用の酸素の配管を施すなど様々な医療設備が整っていたという。このような設備は通常の診療には使われず、費用がかかるだけだ。無駄だという批判も多かったらしいが、強引に押し切ったという話だった。
地下鉄サリン事件の際に、聖路加国際病院は多数の被害者の治療にあたった。救急隊員の機転や、外来診療を中止して被害者の治療に専念するという病院長の決断、松本で起こった事件の関係者との連携、病院スタッフの使命感の強さなど、関係者の対応はすばらしかった。この番組で特に印象に残っているのは、聖路加病院を建て直した際に、緊急時に救急患者の受け入れができるように、予め設計されていたという話である。病院の待合室や礼拝堂に至るまで、いざというときのために壁に人工呼吸用の酸素の配管を施すなど様々な医療設備が整っていたという。このような設備は通常の診療には使われず、費用がかかるだけだ。無駄だという批判も多かったらしいが、強引に押し切ったという話だった。
2.新型インフルエンザ対策は大丈夫か
さて、今のところ今回の新型インフルエンザでは、感染者が重症化するケースは心配されたほど多くはないようだ。しかし、今後急速に感染者が増加する可能性もあり、ウイルスが変異するかもしれない。短期間であれば医療現場のスタッフの使命感の高さなどが体制の不備を補ってくれるかも知れないが、流行が長期間にわたれば疲労も蓄積して、使命感だけでは大量の患者の治療を続けることは難しくなるだろう。
いまさら公立病院の壁に人工呼吸用の酸素の配管工事をしようとしても間に合わないが、今からでも多少なりともできることはあるはずだ。素人考えではあるが、出産・育児で家庭に入ってしまった医師や看護士の再訓練をするなどの人員の手当てや、救急用の医療機器の整備などは、意味があるのではないだろうか。今回のインフルエンザ対策では無駄になるかも知れないが、前から懸念されていた鳥インフルエンザ対策としても役に立つかもしれない。
どのような備えが有効なのか、恐らく専門の方々が色々検討しておられるだろう。備えは厚ければそれに越したことはないが、最後に問題となるのは費用の問題だ。
いまさら公立病院の壁に人工呼吸用の酸素の配管工事をしようとしても間に合わないが、今からでも多少なりともできることはあるはずだ。素人考えではあるが、出産・育児で家庭に入ってしまった医師や看護士の再訓練をするなどの人員の手当てや、救急用の医療機器の整備などは、意味があるのではないだろうか。今回のインフルエンザ対策では無駄になるかも知れないが、前から懸念されていた鳥インフルエンザ対策としても役に立つかもしれない。
どのような備えが有効なのか、恐らく専門の方々が色々検討しておられるだろう。備えは厚ければそれに越したことはないが、最後に問題となるのは費用の問題だ。
3.求められる政治判断
いざというときの備えは難しい。何事も起こらなければ、せっかくの備えは無駄になる。聖路加病院の救急施設は、地下鉄サリン事件で実際に役に立ったという事実を知っているので、今では誰も無駄だとは言わないだろう。しかし、事前にこれらの施設が必要な「無駄」なのだと自信をもって判断できた人はどれだけいるだろうか。また、何事も起こらずにあの施設が老朽化したとしたら、これは必要だったのだとどれだけの人が考えることができただろう。
危機への備えは無駄になる可能性が高い。過去の実績から必要性を判断することはできないし、無駄になった場合に責任の取れない官僚には決定を任せられない問題だ。インフルエンザ問題に限らず、「起こるかも知れない」という危険にどれだけのコストをかけて備えるかという決定には、国民の信を受けた政治家が自らの責任で決断することが求められるだろう。
危機への備えは無駄になる可能性が高い。過去の実績から必要性を判断することはできないし、無駄になった場合に責任の取れない官僚には決定を任せられない問題だ。インフルエンザ問題に限らず、「起こるかも知れない」という危険にどれだけのコストをかけて備えるかという決定には、国民の信を受けた政治家が自らの責任で決断することが求められるだろう。
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
研究・専門分野
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年03月29日
人的資本経営の実践に資するオフィス戦略の在り方-メインオフィスは人的資本経営実践のためのプラットフォームに -
2024年03月29日
晩年に関する不安~老後とその先の不安には「近居」が“程よい距離感” -
2024年03月29日
急速に導入が進むインドの再生可能エネルギー~2030年の国際公約達成を狙える位置に -
2024年03月29日
身体活動基準2023~座位行動時間、筋トレに関する指針が追加 -
2024年03月29日
鉱工業生産24年2月-不正問題の影響で自動車生産が一段と落ち込む
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
-
2023年04月27日
News Release
【新型インフルエンザ問題に見る必要な無駄と本当の無駄】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
新型インフルエンザ問題に見る必要な無駄と本当の無駄のレポート Topへ