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株価は実力と人気で決まる。実力があっても、人気が伴わなければ割安なままで放置される。人気には、流動性の多寡や物色の変遷が反映されるが、「ガバナンス・ディスカウント」も織り込まれるとの指摘がある。つまり、コーポレート・ガバナンス(企業統治)に消極的な企業には、投資家が警戒心を抱くため、株価評価が実力を下回り、人気も低迷しがちだというのである。
海外投資家の存在感が大きい日本の株式市場が上昇に転じるには、何よりも企業業績の回復(実力)が不可欠だが、人気との二人三脚が望ましい。折から、買収防衛策導入などで経営者の保身行動が目に余り、不満を蓄積した海外投資家によるガバナンス改革の提案、具体的には独立社外取締役の導入義務化の要請に対して、何らかの回答が必要なタイミングである。
ところで、海外投資家が導入を求めている独立社外取締役は単なるポーズで、実際の投資行動の際に重視していない可能性もある。そこで、東証一部上場企業を対象に日経NEEDS-Cgesのデータを用いて検証したところ、(1)独立性の高い社外取締役を有する企業の外国人持株比率が有意に高い、その原因として、(2)海外投資家の圧力が独立社外取締役の導入を促進し、それが海外投資家の投資を呼び込むスパイラルが働いている可能性を示唆する、ことが分かった。(詳細は、弊社「年金ストラテジー(vol.156)」)
わが国では主流の監査役会設置会社の4割強が社外取締役を自主的に導入しているが、導入を画一的に押し付けることは望ましくない。なぜなら、経済産業省・企業統治研究会の報告書(2009年6月)も指摘するように、ガバナンスについては、経営者モニタリングの「実効性」確保と、一般株主との間の利益相反がおこらない「独立性」確保の2つの間に、トレードオフの関係がある。そこで、置かれている事業環境も異なる各企業が、今日まで築き上げてきた経営の意思決定メカニズムを尊重しながら、独立社外役員(取締役・監査役)の導入方針を決めて、一般株主に説明責任を果たした上で評価を求めるのが最善、との結論になった。
東証が上場規則を改正して、独立社外役員を最低1名義務化する方向にあるのは、上場企業の品質保証の観点から評価できる。仲間内でない独立社外役員の理解を得るために、経営の意思決定のスピードは落ちても、IR(Investor Relations)の説明力は高まる可能性がある。
仮に独立社外役員の報酬に1,000万円コストがかかっても、経営者と一般株主との間の情報の非対称性が緩和し、企業の時価総額がプラスとなれば、ベネフィットが十分あると言えよう。さらに独立社外役員の有効活用について、企業内部で積極的な工夫が図られれば、その効用は一層大きなものとなろう。
萩尾 博信
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