コラム
2009年07月21日

挑戦を受けるドル基軸体制

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

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1.影響力を増す新興国経済

中国の4-6月期の実質GDPは前年同期比7.9%の増加となり、1-3月期の6.1%から大きく改善した。先進諸国経済が低迷を続ける中で、BRIC’sなど新興国経済は相対的に好調であり、世界経済における影響力は強まっている。
   しかし新興国はそれぞれ問題を抱えており、影響力拡大には懐疑的な見方もある。例えば、中国は新疆ウイグル自治区で起こった暴動への対応のために、イタリアで開催されたG8サミット後の拡大会合に出席する予定だった胡錦濤国家主席が急遽帰国するというありさまだ。インドは国内の宗教対立や貧困問題に悩み、ロシアもウクライナやグルジア問題を抱えている。
   G8サミットの拡大会合で、中国が現在の米ドルを基軸とした国際通貨体制の改革問題を取り上げたと伝えられている。中国の意図はSDRの活用であろう。現在のところSDRの価値はユーロ、日本円、英ポンド、米ドルで構成される通貨バスケットとして定義されている。しかしIMFのウェブサイトには、わざわざ1SDRが何ドルかが毎日掲示されていることでも分かるように、実際の取引は米ドルが中心だ。欧州の金融危機の方が米国よりも深刻である恐れが大きくなっている現在では、ユーロがすぐに基軸通貨としてドルを脅かす存在になるとは考えられない。やはり当面は、ドルが基軸通貨として君臨し続けるだろう。

2.新興国によるドルへの挑戦

しかし、新興国はさまざまな問題を抱えつつもさらに発展し、その経済的な影響が現在よりもさらに強まるのは確実だ。
   すでに中国の国際金融市場における影響力は非常に大きなものになっている。例えば、中国の外貨準備は6月末で2兆1316億ドルと、日本の1兆191億ドルの2倍以上となり、米国債の保有額も5月末時点で日本の6772億ドルを大きく上回る8015億ドルにのぼる。4月末の中国の米国債保有額が前月に比べて減少すると、中国が外貨建て資産を米ドルから他の通貨に移動させているのではないかという観測が広まり国際金融市場を緊張させた。
   さらに国際機関においても着実に新興国の発言力は高まっており、この意味でもドルは挑戦を受けている。IMFは7月1日に、資金調達のために初めて債券を発行することを理事会で正式に決定した。注目すべきは、この債券が新興国の要求に沿ってSDR(特別引出権)建てで発行されることである。今回のIMF債は、民間への譲渡はできないものの、加盟国・中央銀行の間で売買できるので、限定的だが流動性もある。SDRの通貨バスケットの構成は5年ごとに見直され、次回の見直しは2010年末に予定されている。次回の見直しで直ぐに大きな変化は起こらないだろうが、財・サービスの貿易額や外貨準備としての利用額などによって、通貨割合は改定されることになっているので、いずれ中国やインドなど新興国の貿易や国際金融における地位が高まり、バスケットに採用されるはずだ。そして長期的には、新興国の挑戦によってドル基軸体制は崩れるだろう。

3.合従連衡

こうした中で日本はどのような方向に進むべきなのか。中国のGDPは近々日本を上回ることになり、日本に付いていた「世界第二の経済大国」という肩書きは、もうすぐ無くなる。人口規模が10倍以上もあるインドには経済規模で抜かれる日もいずれやってくるだろう。「大国」でなくなる日本が選択する道は、名誉ある孤立か合従連衡策かのいずれかだ。サムライの国日本は「武士は食わねど高楊枝」と誇りを忘れないことは大事なことだが、名誉ある孤立を選んで見栄を張るだけでは生活が大変なことも確かである。
   さて追いかけてくる中国の知恵を借りるのは悔しい気もするが、良いものは誰のアイデアだろうと謙虚に採用するというのが古来日本のやり方だ。ここは昔高校で習った合従連衡策、それも合従策の出番だろう。大国秦と個別に同盟を結ぶ連衡策では、六国は秦に併呑されてしまったからである。日本が盟主と威張っていては合従策は成功しないだろう。「世界第二の経済大国」という肩書きを自ら捨てることができるかどうかが、日本経済の今後の成功の鍵を握っているのではないだろうか。

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経済研究部   専務理事

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野
マクロ経済・経済政策

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