コラム
2009年07月08日

日米家計貯蓄率の逆転

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

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1.昔の話となった日本の高貯蓄率

2007年度の日本の家計貯蓄率は2.2%に低下しており、日本の家計貯蓄率が高いというのは、今や昔ばなしになってしまった。一方、家計貯蓄率が低いことで有名だった米国の方は2005年には0.4%にまで低下していたが、5月は6.9%にまで上昇している。日本の家計貯蓄率がその後急上昇しているとは考え難いので、日米の家計貯蓄率では米国の方が日本よりも高いという、これまで見られなかった逆転現象が起こっていることになる。
   おなじような日米の経済統計の逆転現象は、かつて失業率でも見られたことがある。日米の失業率は日本の方が米国よりも低いというのが長年続いた姿だった。バブル崩壊による長期の低迷に加えて97年の消費税率引き上げなどによって景気が悪化したことから日本の失業率が上昇し、米国経済がITバブルに沸いていた1999年から2001年頃にかけ米国の失業率の方が日本より低いという逆転現象が見られた。こちらの方は、ITバブルが崩壊して米国の失業率が上昇すると、再び米国の失業率が日本を上回るという昔からの姿に戻った。果たして貯蓄率の方はどうなるのだろうか。

2.誤解が多い日本人特殊論

日本の家計貯蓄率が高いのは日本人が貯蓄好きだから、と言われたこともあるが、人々の行動について日本人特殊論的な解釈をすると、後に間違っていたということになることが多い。そういう意味では、日本人は勤勉だとか手先が器用だとかいう話もかなり怪しい。一口に日本人とひとまとめで語る方が無理であり、まじめな人もそうでない人も、器用な人も不器用な人もいる。人種や国籍による違いよりも、個人差の方がはるかに大きいからだ。
   日本の家計貯蓄率の高さは、老後生活のために貯蓄に励んでいる現役世代の割合が高かったという人口構造に由来するところが大きかった。高齢化が進んだことによって65歳以上人口の割合が22.1%に上昇し、老年人口割合が最も高い国のひとつとなったことで、日本の家計貯蓄率は大きく低下している。一見、日本人の特殊性に起因するように見えることも、多くの場合には制度やそのときの経済・社会構造によって説明できることが多い。

3.日米逆転の意味するもの

貯蓄率の日米逆転は、どのような意味があるだろうか。サブプライム・ローンに代表される借入れ拡大に依存した消費を続けたことによって、米国家計のバランスシートは大きく傷ついており、問題を改善するためには消費を抑えて貯蓄に励み債務を削減する必要がある。米国の貯蓄率は、2000年代半ばのほぼゼロという状況が異常だったと考えられるので、それ以前の2%程度に戻るはずだ。一時的にはそれよりかなり高い水準となるだろう。米国の消費が住宅バブルの頃のように活発になることは難しく、貯蓄投資バランスの考え方からは、貿易収支の赤字幅が縮小すると予想される。
   一方日本の貯蓄率の方は、景気が回復して家計所得が増加したり金利が上昇したりすれば多少上昇することが期待できるものの、老年人口割合が2023年には30%に達するなど、高齢化によってさらに低下していくと考えられる。日本の貿易収支の黒字が縮小し、近いうちに赤字が定着するということになるだろう。

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経済研究部   専務理事

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

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マクロ経済・経済政策

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