コラム
2009年06月23日

「オフィス市場の2010年問題」、見えてきた着地点

  松村 徹

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東京でのオフィスビル大量供給が稼働率や賃料の低下を招くという「2003年問題」が騒がれていた2002年6月、我々は、団塊世代の定年退職というオフィス需要の構造的変化に焦点を当てたレポート「東京オフィス市場の2010年問題」を世に問うて注目されたが、2010年を目前にした現在、その着地点が見えてきた。

現在、景気後退で企業利益は大幅に縮小し、オフィスビルに対する新規需要も急速に減少している。絶好調と言われた東京のオフィス市場は、2008年に空室率が上昇に転じて賃料も下落傾向にある。東京ビルヂング協会の景況感は、2003年やバブル崩壊時よりも悪く、観測史上最悪の数値となっている。現時点で7%近い空室率が、2003年当時と同じ8%台半ばの水準に年内にも達する、という市場関係者の見通しも現実味を帯びてきた。我々は最新のレポートで、東京都心3区の賃料が2011年まで下落すると予測している。

2005~2007年にオフィスワーカーが急増して東京のオフィス市場が活況に沸いた時には、「2010年問題は杞憂」という声も聞かれたが、今や市場の先行きを楽観視する者はほとんどいない。しかし、これは我々が予想した「2010年問題」ではない。なぜなら、今直面している市況悪化の原因は、団塊世代退職のインパクトではなく、世界的な金融危機を背景にした経験のない急激な景気後退によるオフィス需要の減退であるためだ。確かに、団塊世代のオフィスワーカーは減少している。しかし、定年退職前にリストラされた人数が少なくないとみられる上、2006年に施行された改正高齢者雇用安定法で60歳から65歳への雇用延長が促進されたため、団塊世代の退職が2007~2009年に集中せずに分散してしまったといえる。

このような法改正以外に我々が7年前に想定できなかったこと、あるいは予測の前提としなかったことは、好景気が「いざなぎ景気」を超えて2002年2月から69ヶ月も続いたことと、2005年頃からの不動産ファンドブームの過熱と今回の金融危機による急収縮、である。また、当時のレポートでは、地方都市におけるオフィス需要の減退についても警鐘を鳴らしていたが、ファンドマネーによるオフィスビルの開発ラッシュは予想外であった。いまや、仙台と名古屋の空室率は過去最高水準を超え、福岡と横浜の空室率も過去最高水準に近づくなど、東京よりはるかに深刻な事態となっている。

結局、団塊世代退職という人口構造面での変化の影響がリストラや政策で緩和された反面、激しい景気変動が2010年を目前にしたオフィス市場を大きく揺さぶっているということである。しかし、中長期的な視点に立てば、オフィスに限らず住宅や商業などあらゆる不動産事業において、少子高齢化による需要の減少やニーズの変化を考慮すべき時代になったのは紛れもない事実であり、7年前の問題提起は間違っていなかったと思っている。さらに、不動産市場がかつてないほど世界の経済活動やマネーの動きと切り離せなくなっている点も重要だ。J-REIT(不動産投信)の充実した情報開示によって、オフィス市場の透明性は飛躍的に高まったが、短期的な収益拡大を目指すファンドの参入で、賃料の動きが激しくなっているだけに、市場のダイナミズムを読み間違わない動体視力も求められていると実感している。

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