コラム
2009年06月18日

「育休切り」を斬る-社会がワーク・ライフ・バランスを勝ち取るために

生活研究部 研究員   天野 馨南子

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3歳未満の子どもを持つ従業員に対する1日6時間の短時間勤務制度の導入、従業員が希望した場合の残業免除、共働きの両親が育休を取る場合の取得期間を、現行の「子どもが1歳になるまで」から「1歳2カ月まで」に延長(母親のみ育児休業取得の場合は現行に同じく1年まで)、専業主婦を配偶者とする男性の育児休業取得を阻む適用除外の撤廃などを盛り込んだ政府の育児・介護休業法改正案に、「育休切り」対策の野党案を盛り込んだ修正改正案が、6月16日の衆議院本会議で全会一致で可決した。今国会で改正法の成立が見込まれる。

労働者側、野党の要求である就学前までの短時間勤務措置ならびに残業免除は叶わなかったものの、不況をきっかけにワーク・ライフ・バランスに大胆に取り組む企業と、経営悪化を理由に新しい取り組みに後ろ向きになる企業に企業が二極化する中、政府のこれまでの調整努力を評価したい。また、野党3党(民主、社民、国民新)の「育休切り」防止に重点を置いた修正案が盛り込まれたことは大変評価できる。

合計特殊出生率が1.37と低迷し、少子化が進展している中で、出産・育児を行う労働者への企業の不利益取扱いは論外である。いうまでもないが、子育てには経済的負担増加が伴う。出産・育児に雇用上の不利益が伴うようであっては、労働者は安心して妊娠・出産など出来たものではない。また、国税庁の民間給与実態統計調査によれば、サラリーマンの平均年収は平成9年467万円から低下し続け、平成19年には前年より2万円アップで下げ止まったものの437万円にまで低下してきている。このような年収低下の波の中で妻が育休切りにあえば、あともう一人子ども、はよりハードルが高い希望となる。企業の育休切りは法律違反であるだけでなく、少子化に悩む社会への敵対行為といっても過言ではないだろう。

しかしながら残念なことに、長引く不況の影響で、出産や育児休業を理由に勤め先から解雇や職種変更を迫られた労働者からの労働局への相談が増加している。

厚生労働省の3月発表数値によれば、育児休業にかかる不利益取扱いに関する相談件数は平成20年度は1,107件で、5年前の平成16年度の521件から倍増している。妊娠・出産を理由とした解雇等不利益取扱いに関する相談件数も平成20年度1,806件で、やはり平成16年度の875件から倍増している。

このような状況下、厚生労働省ならびに都道府県労働局は育休切りに対して厳正な対応を行うことを今年3月に発表した。しかしながら、まず何よりも労働者本人が、企業の育休切りに対して自らの権利を知っておくことでしっかりとした対応をしたいものである。

上にも触れたように、育休切りは法律違反である。

妊娠・出産、産前産後休業にかかる不利益取扱は、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(通称:男女雇用機会均等法)第9条において禁止されている。また、育児休業・介護休業・子の看護休暇取得にまつわる不利益取扱いについては「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(通称:育児介護休業法)第10条、第16条、第16条の4で禁止されている。さらに理由にかかわらず、産前産後休業の期間中と産前産後休業後30日間は、解雇が禁止されている(労働基準法第19条)。このことをしっかり頭に入れて、労働者とその家族は出産・育児に臨んで欲しい。

将来的に国内マーケットの縮小をもたらす少子化にさらなる追い討ちをかける「今乗り切れば、それでいい」経営感覚しかもたない「育休切り」企業を変えていくのは、政府だけではなく、労働者一人一人の姿勢でもある。
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生活研究部   研究員

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
少子化対策・女性活躍推進

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