コラム
2009年06月03日

GMの連邦破産法申請

櫨(はじ) 浩一

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1.事前調整型の経営破たん

6月1日、GMは連邦破産法第11条の適用を申請した。約一世紀にわたって世界最大の自動車会社として君臨してきたGMの経営破綻は、世界に大きな衝撃を与えた。

もっとも、既にかなり前からGMの破産法適用申請は不可避と報道されており、多くの債権者から再建計画の同意を得てから破産法の適用を申請する、事前調整型破たんとなったため、2008年9月にリーマンブラザーズが破綻したときのような驚きは全くなく、金融市場へのマイナスのインパクトはほぼゼロと言ってよい。1日のNY市場では、5月のISM製造業景況感指数が予想以上に改善したこともあって、ダウ平均は221ドル高となった。

クライスラーが4月30日に連邦破産法の適用を申請し、GMの破産法適用申請と同日に連邦破産裁判所で再生計画が承認されて短期で再建が始まったこともあって、GMも早期に再建されるという期待が持たれている。

2.長期にわたる経済への影響

GMの経営破たんによって金融市場が混乱するという事態は回避されたが、経済への影響が無いわけではない。11工場が閉鎖され3工場は一時休止となると報道されており、多数の労働者を抱えるディーラーも削減されるなどによって雇用の場が失われ、部品産業など関連産業まで含めれば、多くの失業者が発生することになる。これまでGMの経営を圧迫してきた退職者への医療や年金の負担は、破産法の適用で軽減交渉が容易となって大きく削減できることが期待されているが、それは退職者の家計を圧迫することになる。

株式市場への大きな打撃は避けられたが、じわじわと消費を圧迫することによって長期にわたって米国経済を下押しすることになるだろう。

3.学ぶべき多くの教訓

GM経営破たんの直接的な原因は、金融危機による世界的な経済の悪化だが、かなり前から経営不振が伝えられていた。高い人件費、環境問題対応の遅れ、大型車へのシフト、多ブランド戦略など、破綻に至るまでには様々な要因が関わっている。

大型車へのシフトは高付加価値で利益率の高い製品に注力した結果であるが、日本企業も中国製や東南アジア製の廉価な製品が大量に供給されることに対して、家電製品などで国内生産を高性能・高付加価値商品にシフトしてきた。しかし、高性能、多機能を謳って差別化を図ろうとする戦略が独りよがりに終わり、消費者が使いこなせず多くの機能が宝の持ち腐れとなることも少なくない。

GMが世界一となったのは、フォードの有名なT型フォードの単一製品大量生産に対抗して、複数のブランドを使い分けることによって、目的や予算の異なる消費者の多様な需要に対応できたからだと言われる。しかしその一方で、多くのブランドが乱立し、明確なブランド戦略を立てられなかった。車通ではない筆者には、米国車のどれとどれがGMの車種なのか、よく分からないほどだ。

従業員の企業への忠誠心の源泉となっていた退職者への手厚い医療や年金の給付は、経営の足かせになってしまった。1970~80年代の排気ガス規制を政治力で押さえ込もうとしたことが、いち早く規制をクリアした日本車の台頭を許したという面もある。

失敗は成功のもとだが、逆に成功は失敗のもとでもある。過去の成功体験から脱却できずに破綻してしまう企業は少なくない。反面教師として多くの教訓を学ぶことができるだろう。
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