コラム
2009年05月27日

若年性認知症ケアのこれから

  山梨 恵子

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65歳未満で発症するいわゆる「若年性認知症」。記憶がつながらない、出来ていたはずのことが出来なくなる、当たり前のことが当たり前ではなくなるといった焦燥感や不安は、高齢期に発症する認知症よりも、本人が体験する苦痛や困難をさらに大きなものにする。

現在、全国の若年性認知症者の推計人数は3.8万人(「若年性認知症の実態等に関する調査」厚生労働省調べ)。稀に、20歳代、30歳代での発症がみられることもあり、5歳刻みの人口階層別にみると、有病率がほぼ倍増していくとの調査結果もある。しかし、我が国の若年性認知症に対応するケアサービスや専門的援助技術は乏しく、例え介護保険で要介護認定が受けられたとしても、利用できるのは、80代、90代のお年寄りと一緒に過ごすデイサービスやグループホームが一般的なサービスとなる。働き盛りの世代が就労困難な状況に陥るという経済面も深刻で、家族介護者の6割が抑うつ状態となっている状況などからも、当事者等の置かれた状況の厳しさを容易に想像することができる。

薬にも頼れない、サービスにも頼れない、周囲の人や社会の病気に対する理解も不足している状況の中で、本人・家族は、いま、どのような支援を望んでいるのだろうか。先日、厚生労働省は、若年性認知症施策に活かすために、本人・家族の声を直接聞く機会を設けた。そこでは、本人の胸に詰まる想いが、厚生労働大臣をはじめとする担当官等に少しずつ、ゆっくりと語られ、周囲の無理解、社会的支援の不足、社会と切り離されていく不安、自立や就労への想いなどが切々と伝えられた。これらは、一方的に介護されるだけの立場に置かれることへの抵抗感の表れや、本人に残されている「できる力」を活かせる場づくりへの訴えでもあり、今後の若年性認知症ケアの根底に置くべき課題でもある。

若年性認知症ケアに取り組む数少ない介護サービス事業者に共通することは、本人達の言葉通り、「できる力」を活かす活動の場の確保や、一人ひとりの状態、状況に応じた個別支援に尽力している点である。そして、このような相互関係重視のケアは、一部の心ある事業者等によって採算度外視の試行錯誤の状況にあるのが実情といえる。

若年性認知症ケアは、感性やプライド、そして体力を保ったまま、知力だけが低下していく本人のアンバランスさを正面から受け止めていく体当たりの支援となる。そういう意味で、援助者には若年性認知症ケアならではの高度な専門技術と覚悟が求められる。しかし、介護保険制度という枠の中でこれに取り組むのは至難の業であり、個別性の高いケアを提供しようとすればするほど様々な障害が現れる。例えば、社会とのつながりや役割意識を持ち続けてもらうための就労支援も、現行制度には馴染まない。サービスの提供時間内に利用者が対価を得る仕事に就くことは認められていないし、事業者は必要な人件費コストを介護報酬で賄うこともできない。また、施設外での活動に難色を示す行政も少なくないからである。

介護保険制度におけるサービス提供とは、必要最低限の家事支援や施設という囲われた場所の中で過ごしてもらうことが基本となっており、本人の暮らしを支えるとか、社会参画を支援する等の事は想定していない。多くは、事業者が用意するメニュー(折り紙、ぬりえ、書道などが準備されている場合も多い)に従いながら安全に過ごしてもらうことをサービスの意義としている。利用者は、自立が困難だからこそ、ケアワーカーの付き添いのもとに、社会とのつながりを持ち続けることを願っているのに、求める支援と用意されたサービスのギャップは大きい。

いま、若年性認知症ケアで最も求められているのは、型にはめない「オーダーメード」のサービス提供である。そのためには、現場がより多くの裁量権を持ち、必要な支援を提供する際、それを邪魔しない制度づくりや行政の柔軟な対応が必要なのではないだろうか。

山梨 恵子

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