2009年05月08日

真価が問われるJ-REITの収益安定性 ~進む市場の安全網整備と残された課題~

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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■見出し

1. J-REITの収益は安定している
2. 進む市場の安全網整備・拡充
3. 市場発展に向けて残された課題
おわりに

■introduction

米国発のグローバルな金融市場の混乱は、実体経済の悪化へ波及し、国内不動産市場においても新興不動産会社の経営破綻やオフィス市況の悪化など、大きな影響を及ぼしている。
2001年9月にスタートして以来、オフィス・商業施設・住宅など投資対象を拡大しつつ成長を遂げてきた不動産投資信託(以下、J-REIT)市場も例外ではなく、運用不動産は8兆円超で頭打ちし、東証REIT指数は最高値(2007年5月末)から約▲70%下落、市場時価総額は6.8兆円から2.5兆円(今年3月末)まで縮小している(図表-1)。
J-REITは、投資家からの出資金に借入金を加えて賃貸不動産に投資、利益の90%以上を投資家へ分配すること等により法人税が免除された、いわば「非課税の不動産賃貸事業を行う器」である。不動産から生じるキャッシュフローは、賃料や稼働率など不動産ファンダメンタルズに左右されるものの、本来ディフェンシブ性が高く安定している。実際、J-REITの予想1口当たり利益(以下、EPS)と国内株式(TOPIX)のEPSを比較した場合、国内株式のEPSが一部企業の巨額赤字など特殊要因もあって2008年後半から急低下する一方、J-REITのEPS低下は小幅に止まっている(図表-2)。
しかし、J-REITの投資口価格は、こうした収益安定性を反映することなく、国内株式を上回る高い価格変動性(ボラティリティ)を示しながら急落しており、2008年10月に、住宅特化型REITであるニューシティ・レジデンス投資法人(以下、NCR)が民事再生法適用を申請するに至って、倒産隔離の仕組みなどJ-REIT制度に対する投資家の信頼は大きく低下することになった。
J-REITは情報開示の透明性が高く収益の安定した優れた金融商品である。しかし、商品特性が投資家に理解され適正に評価されるには、環境変化に対する制度の頑健性や投資主利益を最優先する規律の存在をしっかりと示す必要がある。
以下では、決算データをもとにJ-REITの財務構造や運用実績を分析、今般の市場急落やJ-REIT制度の改正・公的資金を活用した資金繰り支援策など政策対応を確認したうえで、今後の市場発展に向けて残された課題について述べたい。

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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