2009年04月24日

東大ジェロントロジー研究への期待

赤松 秀樹

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4月1日付で東京大学の「高齢社会総合研究機構(The Institute of Gerontology)」が発足した。
これは、3年前から日本生命グループを含む民間企業3社が支援し、ニッセイ基礎研究所が運営に協力してきた「東京大学ジェロントロジー寄付研究部門」のこの間の活動が評価され、正式な恒久組織として位置づけられるに至ったものである。加齢に伴う様々な問題に対して、あらゆる学問分野の知識を結集・統合し、最善の解決策を見つけようとする「ジェロントロジー」は、世界に例のない急速な高齢化のただ中にいるわが国においてとりわけ大切な学問である。この度、産業機械工学専攻の鎌田実教授を機構長に、前厚生労働省事務次官の辻哲夫氏と、米国のジェロントロジーに詳しく「寄付研究部門」の育ての親である秋山弘子教授、という豪華な顔ぶれで東京大学に恒久的な研究拠点が確立されたことは非常に意義深い。わが国の高齢化は、現在「アラ還」と呼ばれる団塊世代が、今後肉体的にも精神的にも本格的な「老い」を迎えて来るにつれて、社会に様々な問題を提起してくることは明らかだ。例えば、昨今話題の高速道路の逆走に象徴される高齢ドライバーの問題にしても、今後ますます深刻な問題になると思われるが、単に免許更新時に認知症のテストを行い失格者から免許証を取り上げるだけで解決出来る問題ではない。加齢に伴う肉体的能力や認知能力の衰えをカバーして安全に運転出来る車の開発は当然として、それを安全に利用出来る為の交通ルールや道路標識の整備、高齢者のプライドを傷つけることなく自らの認知能力の衰えを認め運転を諦めさせる為の話法や教育のあり方も工夫が必要になる。更に、車がなければ日常の買い物も出来ない地域に住む人達の代替交通手段や物流の確保、或いは引きこもりにならないような地域の人間関係をどう築いてゆくか、更には緊急時のサポート体制、といった様々な条件が伴わない限り、高齢者が安心し納得して免許証を手放すことは無いだろう。
今後次々に顕在化してくるであろうこうした様々な問題に対応し、高齢者が、社会の負担となることなく、誇りを持って幸せな老後生活を送ることのできるようにするためには、医学・工学・心理学等様々な分野での最先端の知識が、全体的な視野の下で有機的に統合される「知の構造化」(小宮山前東大総長)が不可欠である。しかもそれが単なる学問上の成果に止まるのではなく、一般に活用される商品・サービスとして提供され、また、そのことが事業として成り立つための様々な条件整備も必要となる。そして、世界的に進む高齢化を先取りした技術・サービスの開発・実用化は、太陽電池や環境適合車の開発で世界をリードしてきた日本の産業界にとって、新たな成長の源ともなり得よう。これらの動きをリードするものとして東大のジェロントロジー研究への期待は大きい。

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