コラム
2009年04月23日

進化する東大のワーク・ライフ・バランス ~保育支援編

生活研究部 研究員   天野 馨南子

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東京大学がワーク・ライフ・バランス(以下WLB)にアグレッシブだ。今月、東京大学が発表した男女共同参画加速のための宣言の中ではなんと「公的な会議は17時以降行わない」という注目すべき方針が打ち出された。
   深刻な少子化が進む中、東京大学のWLB戦略は「少子化社会における優秀な人材の確保」を最大の狙いとしており、教育機関のみならず一般企業にとっても決して他人事ではなく、学ぶところがあるはずである。

東大のWLBの背景にはわが国の深刻な人材活用問題がある。平成20年版男女共同参画白書によれば、わが国の女性研究者比率は12.4%であるが、この数値はアメリカの34.3%、フランスの27.8%、イギリスの26.0%、ドイツの19.2%など他の先進諸国に比べると大きな遅れを示している。別途OECD調査によれば、女性研究者比率は長年最下位を続けてきた韓国に抜かれて加盟諸国の中で最下位に転落している。女性活躍で先進諸外国に大幅に遅れていることは、研究機関においても一般企業においても同様なのである。
   このような人材活用の国際的に見ても顕著な「人材活用の歪み」を是正することなくして真に優秀な人材の確保は難しいと考えた同大学は、昨年から「本気の」女性研究員の養成・確保に本格的に乗り出した。冒頭で紹介した「17時まで会議」宣言もその一環であるが、巨額の改修・運営費をかけ利用者の立場を徹底的に考えて設立された「東大保育園」も特筆に値する。以下に紹介したい。

2009年4月現在、東大は4つのキャンパスそれぞれに保育園を有している。2007年4月開園「東大病院いちょう保育園」を皮切りに、2008年には「東大本郷けやき保育園」「東大白金ひまわり保育園」「東大柏どんぐり保育園」の3園が一気に設立され、迅速な保育支援が展開された。

~ 東大保育園 3つの革新性 ~
   (1)「学生も利用できる」システム
   東大が日本の大学保育園で初めて導入したシステムとして非常に画期的である(いちょう保育園除く)。低所得層に間口が広い認可保育園でさえ、入園選考で共働き夫婦が優先されるため学生パパママの子どもは入園困難となっている。同大学はわざと公的入園選考をうけない無認可保育園として保育園を設立し、学生の子どもの受け入れを可能にした。
   (2)無認可なのに所得比例
   一般の無認可保育園は所得比例の保育料金ではなく、保育料金も高く18時までの基本保育で10万を超えるところも珍しくない。一方、東大保育園は所得比例料金となっており、年収100万円未満は無料であり、最高でも年収800万円超の5万6千円とリーズナブルな価格設定である。
   (3)柔軟な保育時間
   預け入れ時間は基本朝から夕方までの10時間で、それ以外に、夜21時までの延長保育、土曜保育などが充実している。認可保育園民間委託が進む中、夜間延長保育が進んでいるとはいえ、20時まで預け入れ可能な認可保育園を探すのは難しい。

一般の企業が保育園を本格的に運営することは費用面において多大なコストを生じ、なかなか難しいかもしれない(東京都内に100以上の企業内保育所をもつ大企業も出現しているが)。ただ、急速に進展する少子化社会において、まだ年齢においても所得においても低い層の育児支援を何らかの形で行うことは、企業ファンを作る有効な手段であり、さらには優秀な人材を集める上で、今後極めて有効な戦略となってくるのではないだろうか。

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生活研究部   研究員

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
少子化対策・女性活躍推進

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