コラム
2009年04月20日

貿易赤字は問題か?

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

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1.悪化する貿易収支

4月22日に財務省から3月分の貿易統計が発表されて、2008年度の結果が出る。2月までの結果から見て、2008年度の輸出と輸入の収支差は2007年度の10兆円の黒字から大きく減少し赤字となる可能性が高い。世界経済の急減速を受けて輸出が落ち込む一方で、原油の高騰などから輸入金額が膨らんでいたため、2月までの累計で輸出・入の収支差は約7000億円の赤字となっており、3月がかなりの黒字にならなければ年度で赤字に転落となる。貿易統計で輸出入の収支差が赤字となるのは、第二次石油危機当時1980年度に1.4兆円の赤字となって以来のことだ。
   輸出の急減によって鉱工業生産は第一次石油危機当時を上回る大幅な落ち込みとなって、国内景気にも大きな打撃を与えている。

2.貿易赤字を出せるのは日本など少数の国だけ

2008年度の収支が赤字となるかどうかは結果を見るしかないが、収支が大幅に悪化していることは確実だ。貿易収支の悪化を、危機ととらえる議論も出てくるだろう。しかし、世界各国の貿易収支は、足し上げると必ずゼロになる、「ゼロサム」という制約がある。全ての国が黒字になるということは有り得ず、どこかの国が黒字を出せば、どこか他の国が同じだけ赤字となるので、黒字が良くて赤字が悪いということではない。
   原油価格高騰が起こる直前の世界の貿易収支構造は、単純化してしまえば、「米国一国だけが大幅な赤字で、その他の国々はみな黒字」という状態だった。米国の大幅な貿易赤字はサブプライムローン問題の背景となっており、バブルの崩壊によって米国の貿易赤字の縮小が起こっている。ゼロサムの制約から、米国以外の国々の黒字は縮小せざるを得ない。
   直接、間接に米国への輸出によって高成長を謳歌していた多くの発展途上国は、輸出の急減に見舞われ、国内経済にも大きな打撃を受けている。さらに欧米諸国の金融危機による国際金融取引の収縮から、資本の流出が起こり貿易収支の黒字拡大で資金を稼ぎ出す必要性に迫られている国も少なくない。
   米国の貿易赤字の縮小をカバーできる国は、海外に大量の資産を持ち国際的な信用力がある日本などわずかな国に限られる。日本の貿易収支の黒字縮小は必然であり、赤字化することは世界経済のバランスにとってはむしろ望ましいことなのだ。

3.日本の貿易収支は赤字が普通の姿に

2008年度の貿易黒字が大きく減少したことには、夏場には原油価格が1バレル150ドル近くにまで高騰したという要因も加わっている。異常な原油価格の高騰は治まっており、世界経済が安定すれば日本の貿易収支は再び黒字幅が拡大する可能性が高い。しかし、人口構造の高齢化によって、遠からず日本の貿易収支は赤字化し、所得収支の黒字でそれを相殺する時代がやってくる。
   日本の貿易収支の赤字化は、日本が輸出をしない国になったり、貿易に依存しない国になったりするということではない。日本は得意な生産物を輸出し、日本国内での生産が向かない製品は輸入するという、本当の意味で貿易に依存した国になるのである。

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経済研究部   専務理事

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野
マクロ経済・経済政策

(2009年04月20日「エコノミストの眼」)

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