コラム
2009年04月16日

持家と賃貸住宅のファイナンス

  遅澤 秀一

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世の中が不況になると、景気対策として住宅ローン減税が実施される。今回はそれに加えて、住宅の購入・リフォームに使うことを条件に贈与税の無税枠の拡大まで認めようという大盤振る舞いである。

さて、政府は持家保有を奨励しているようだが、持家と賃貸住宅のどちらが有利なのかをファイナンス的に理解している人は少ないだろう。土地価格の右肩上がり神話が崩壊した後も、家賃を払い続けても自分のものにならない賃貸住宅は損だと思っている人も多い。また、土地は価格上昇の可能性があるが、建物は時間の経過で確実に資産価値が低下するので不利だと思っている人も多い。

損得計算をするには、まず持家の帰属家賃に関する理解が必要である。帰属家賃とは、持家も借家と同一のサービスが消費されたものとして、市場家賃で評価された家賃のことである。つまり、持家によって支払わずにすむ家賃であるが、他人に貸せば家賃を得られるはずなのに自分が住んでいるために放棄している家賃でもある。換言すれば、自分に対して帰属家賃を支払い、自分から帰属家賃を受け取っていると考えるのである。

「賃貸住宅は家賃を払うが、持家は払う必要がない」と言う人は、帰属家賃を正確に理解していないことになる。たとえば、全額自己資金で持家を購入する場合と、その自己資金を金融資産で運用しながら賃貸住宅に住む場合との相違は、持家を貸して帰属家賃を得るか、金融資産の運用収益を得るかの違いである。帰属家賃が世間相場であれば、両者の住居に対するコストに差はないことになる。金融資産と不動産は、取引・税制等の摩擦がなく市場が効率的であれば、リスク(市場リスク・流動性リスク等)を調整した後のリターンは等しくなり、有利・不利はないはずだ。建物の減価も、将来の家賃低下に織り込まれて価格付けされるはずである。住宅ローンを組んで持家を購入する場合は、金融資産の運用利回りと借入れ利率の差が問題となるが、後者の方が高ければ持家が不利になる。

とはいうものの、実際には帰属家賃には課税されず、各種の持家優遇税制もあり、また、相続の際は時価評価される金融資産よりも不動産の方が有利なことも多い。一方、金融資産の方が流動性・取引コスト・市場の効率性等の点では明らかに優れている。不動産は個別条件の差が大きく損得計算は難しいが、持家の問題はむしろ、個人資産ポートフォリオが不動産に偏りバランスを失することと、不動産投資として考えても、住居としての制約のため自由度を欠くことにあるだろう。

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