コラム
2009年04月10日

短期で終わった地価上昇、日本の不動産を「長期・売り」方針とさせないために

  松村 徹

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2009年1月1日時点の公示地価は、全国平均(全用途)で前年比3.5%下落し、90年代初頭のバブル崩壊以来ようやく迎えた地価上昇局面は、わずか2年(3大都市圏商業地のみ3年)で幕を閉じた。マスコミは、大都市圏の中心都市である東京や大阪、名古屋の地価が、不動産ファンドブームで急上昇した反動で大きく落ち込んだことを報じるが、地方圏の平均地価が、一部の大都市を除けば1993年以降一度も上昇していないという事実にも注目すべきであろう。実は、今回の地価上昇がピークだった昨年でも、上昇地点の数は調査地点全体の半分に過ぎず、4割以上の地点で地価は下落を続けていたのである。

地方から大都市に人口が流入し、経済が高度成長を続けた80年代まで、地価が常に上がり続けたことから土地神話が生まれ、最後にバブルを生んではじけた。その反省もあり、90年代後半以降は、不動産評価において収益価値や利用価値が重視されるようになり、地価は実体経済の需給や投資資金の動向をより反映して変動するようになった。しかし、その結果、世界規模のマネーゲームに巻き込まれ、昨今の金融危機では深刻な信用収縮の影響を受けている。

ただし、これは大都市の地価動向の説明にすぎない。ファンドマネーの洗練すら受けなかった多くの地方都市では、人口流出や経済活動の低迷が続き、今後も地価が上がる要素はほとんどない。地方分権がいつまでも進まない中、人口と経済機能の大都市集中傾向は強まっており、地方経済が力強く浮上する可能性は非常に低いからだ。仮に、経済活動が低迷して、来街者や居住人口が減っているにもかかわらず、地価だけが上がっていく地域があれば、それは何らかの思惑による投機的な土地需要の存在を疑うべきであろうし、そのような地価上昇は長続きしないだろう。

日本の地価が再び長期下落トレンドに戻ったのであれば、不動産事業者や投資家にとって非常に深刻な事態といえる。つまり、不動産に投資しても将来の値上がりが期待できない、ことを意味するからだ。政策当局は「不動産市場の活性化が日本経済の成長にとって不可欠」という言い方をするが、地価や不動産価格がその利用価値や収益価値で決まるとすれば、「日本経済(地域経済)の成長こそ、不動産市場の活性化に不可欠」と言うのが正しい。現下の市況に鑑みれば、緊急の市場活性化策が議論されるのは仕方がないが、人口減少・高齢化や地球環境配慮という制約の下で、日本の持続的成長を担保するための大きなビジョンや未来への投資戦略が見えないのは残念だ。

輸出に代わる新しい成長エンジンを手に入れなければ、日本経済は低空飛行を続け、不動産需要は長期的に縮小に向かうしかないだろう。低迷する多数の地方都市と比べて今は少数の勝ち組に見える東京や大阪、名古屋などの大都市も、今後は高齢化が一気に進む。海外投資家から見て、経済規模や今後の景気回復を視野に入れると、日本の不動産は中期的には「買い」方針かもしれないが、長期的には「売り」方針とならざるをえないだろう。

日本の不動産を「長期・売り」方針とさせないため、「貿易立国」に代わる新しい国家戦略が求められる。具体的には、日本の総人口が減少トレンドにあっても、アジア圏での経済的地位を維持し、世界中からヒト・モノ・カネ・情報を集め、不動産の利用価値や収益価値が下がらない経済構造に転換していくことが必要だ。英国やアイスランドなどを真似た「金融立国」はひとつの選択肢だったといえるが、行き過ぎた金融資本主義の破たんを受けて戦略の立て直しは避けられない。

歴史と文化、豊かな自然環境を持つ日本にとって、「観光立国」戦略がふさわしいのは言を俟たないが、地球温暖化対策が世界的な課題となっている現在、日本版グリーン・ニューディールの推進で「環境立国」を目指すという戦略も重要であろう。不動産は、経済活動や生活、レジャーの器であるとともに、街や地域の景観を形成する装置でもあり、また、温暖化ガスの排出源でもあることから、「観光立国」、「環境立国」戦略との親和性は非常に高く、大きな相乗効果も期待できると思われる。

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