2009年03月25日

金融マーケティングにおけるセグメンテーション -生保加入時の能動的行動に注目して-

生活研究部 主任研究員 井上 智紀

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

栗林 敦子

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本稿は、筆者らが金融・保険商品にかかわる消費者行動を定点的に観察している中で、近年目立っている「自ら調べた情報をもとに会社や商品を比較・検討して、加入する消費者層」に着目し、その金融意識・行動の特徴を、生命保険を例に分析し、今後の金融マーケティング上の示唆を得ることを目的としたものである。
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一般の商品・サービスの購入時と同様に、金融商品の契約・加入に際しても消費者は「成熟化」しつつある。インターネットの普及により金融機関や金融商品の選択時に必要な情報を集める環境が整ったこと、高齢期に向けて自助努力による資産形成の必要性が高まり金融商品・サービスの消費経験を積んだ人口が増加したことなどがその主な理由であると考えられる。しかし、個々人の成熟化のレベルがまちまちであることを踏まえると、消費者の金融行動は購入プロセスの違いに配慮した「精緻化見込みモデル」に則して捉える必要があろう。
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生命保険加入者を、生保への加入検討プロセスにおける行動の主体性から「能動的顧客」と「受動的顧客」に分類し、さらに自身の保障ニーズの認識をキーとして能動的顧客を「真性能動的顧客」、「擬似能動的顧客」に分類したところ、「能動的顧客」は加入者の4人に1人、「真性能動的顧客」はさらにその4分の1程度と加入者全体の中ではごく僅かであった。主体的に情報を収集し会社や商品の比較検討を行う「能動的顧客」の大半は、情報を集めても自身のニーズに照らして商品を絞り込めない「擬似能動的顧客」である。
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生保に関する知識量については、「真性能動的顧客」が突出して高知識であり、「擬似能動的顧客」と「受動的顧客」の知識レベルには大きな差はみられない。また、関与については、「真性能動的顧客」は知覚リスクが、「受動的顧客」はブランド関与がそれぞれ他のセグメントに比べ高い。「擬似能動的顧客」は「受動的顧客」よりも価格に対し高関与である。
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加入検討時にとったプロセスについては、真性能動的顧客、擬似能動的顧客の多くがニーズ検討、商品・会社検索、保障内容・保険料検索、商品・会社比較、加入商品決定といった5段階すべてのプロセスをたどる詳細な検討を経て加入に至っていることが示された。また、各々のプロセスにおいては、真性能動的顧客、擬似能動的顧客が「自ら保険会社に請求した資料」を中心として多様な情報源を利用しており、両者で利用している情報源の数には大きな差異はみられない。
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真性能動的顧客は擬似能動的顧客、受動的顧客に比べ加入した商品に対する理解も深く、保障内容の自身への必要性や価格との見合いに対する納得度も高い。同様に、加入を決めた最終的な決定要因としても、真性能動的顧客では「商品の内容」をあげる割合が最も高く、「保険料が妥当」をあげた擬似能動的顧客、受動的顧客とは異なる。
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加入後の満足度を「満足している」の割合でみると、真性能動的顧客の満足度の高さが際立つ結果となった。商品の継続意向についても同様に、「継続する」の割合は真性能動的顧客では半数を超えており、擬似能動的顧客、受動的顧客に比べ特徴的である。加入した生命保険の他者への推奨意向では、真性能動的顧客の半数近くが推奨意向を示しており、2~3割に留まる擬似能動的顧客、受動的顧客とは顕著な差がある。
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個々の金融機関が、今後も増加が予想される擬似能動的顧客を取り込み・維持していくためには、より強固なブランドを形成していく戦略の構築とともに、知識の乏しい擬似能動的顧客にも容易に理解できるわかりやすい商品を提供していくことが求められる。あわせて、擬似能動的顧客を真性能動的顧客に変えていくため、適切な情報提供・啓発活動を通じた消費者全体のリテラシー向上への継続的な取組みも必要となるだろう。

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