コラム
2009年03月23日

本格化するプロシクリカリティ(景気循環増幅効果)の議論

  荻原 邦男

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もう終わったかのように言うのはおかしなものであるが、今回の金融危機からの教訓の一つとして、監督規制が逆に景気変動を増幅してしまう、いわゆるプロシクリカリティ(procyclicality)の問題が議論されている。これは、不況になると銀行の必要とする自己資本が増大し、これが貸出しの抑制につながり、不況を増幅してしまうといった事象を指して言う。英国のFSA(金融監督当局である金融サービス機構)がこのほど公表した銀行規制の改革提案であるTurner Reviewによれば、景気変動に対応した銀行の自己資本の見直しやヘッジファンドや格付け会社への規制強化が打ち出されており、今後英国のみならず国際的な場で議論が本格化することになろう。また、当然ながら保険会社の規制にも同種の側面があり、並行して議論が行われるものと考えられる。

今回の提案のなかで特に注目されるプロシクリカリティへの対応をもう少し詳しく言えば、例えばEconomic Cycle Reserveの創設といった形で、将来の損失に備えるバッファーを保持する必要性を提案しているのである。その水準の設定にあたって、一律のフォーミュラーによるのか、金融機関と監督側との間で実情にあった形で裁量的に定めるのか、大別して二つの考え方があるとし、具体的事項は今後関係者と詰めていくことが予定されている。加えて重要なのは、負債として計上するには無理があるとしても、明示的な勘定(published accounts)で公表することを提案している点である。こうした留保に伴う負担を利害関係者が明確に認識できる形が望ましいとし、例えば報酬の基準となる利益の評価にもこうした負担を反映させるべきとの主張がなされている。

これに関連して想起されるのは、保険の世界における平衡準備金という考え方である。好況の時に発生する利益をすべて還元してしまうのではなく、将来の損失のために一定程度をこの勘定に留保しておき、会社の各期の利益をある程度平準化するというものである。現在、こうした勘定を生保会社が持っているわけではないものの、こうした保守的な思考は一般に見られるところである。ただし、IASB(国際会計基準審議会)が保険契約プロジェクトの中で、その負債性を明確に否定しており、財務会計として負債計上することは困難と思われるが、監督会計の世界でこうした長期的な経済サイクルを念頭におき、なんらかの"平衡準備金"的な考え方が議論されるようになったのは、注目していいだろう。

さて、今年度も残りわずかとなった。生保関係者にとっては、特に株価の水準が気になるところである。日経平均の12月月中平均8463円に対し、3月2日から19までの平均は7447円と1割以上さらに下落している。今期決算での注目点の一つは、百年に一度とも言われる経済環境悪化のなかで、資産の減価の影響を諸準備金(危険準備金、価格変動準備金等)の取り崩しでどの程度緩和できるのか、そしてこれとの関係で諸準備金の妥当な水準はいかにあるべきか、といった点であろう。
   このように生保は引き続き厳しい環境下にあるが、金融審議会では「日本の規制の多さに対してこれまで随分批判されてきたが、結果的には規制が残っていたために日本の金融機関は世界的な金融危機において壊滅状態にならなかったのであり、日本の金融制度はもっと評価されるべき。」との議論もされているようだ(金融庁サイトによる)。金融危機を一足先に経験したわが国生保は、こうした危機への対応や監督規制のあり方の議論において貢献しうるのではなかろうか。

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