2009年02月25日

金融危機後の世界経済と日本の選択

櫨(はじ) 浩一

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米国や欧州経済が不振となっても新興国経済が世界を牽引するというデカップリング論が間違いであったことが明らかとなったことを見れば、今回の金融危機を経てもなお、米国経済が世界経済の動向を左右する巨大な経済であり続けることは間違いないだろう。
しかし、金融危機を乗り越えた先の世界経済は以前と同じものではありえない。一時的な停滞はあっても、十数億人という巨大な人口を抱える中国やインドが経済発展によって一人当たりの所得を増加させて、世界経済の中に占める地位をさらに向上させていくのは確実だ。今回の金融危機は、決まり文句のように百年に一度のという表現が使われる。1929年に起こった大恐慌は、第一次世界大戦を経て経済力の中心が欧州から米国へと移行する過程で起きたが、今回の危機を震源地となった殴米経済と台頭する新興国経済の力関係の変化という歴史的な流れの中でとらえることも可能だろう。
こうした中で、人口減少に直面している日本経済は、長期的にみれば世界の中に占める相対的な地位が低下せざるを得ない。国連の資料によれば、1950年時点では日本の人口は世界第5位だったが、2005年には10位となっており、2050年には16位に後退すると予測されている。
人口の規模からしても大国であり続けることは困難である。困難を前にしてあきらめてしまわずに日本経済を少しでも活力あるものにしていこうと努力することは重要だが、現実を踏まえた対応策を用意しておくことが必要だ。
人口規模が日本を下回るドイツやフランスは、単独の経済として生き残る道を捨ててユーロ圏という統一市場を作ることを選択した。ユーロ圏の金融危機も深刻になりそうだが、寄らば大樹の陰とばかり、統一通貨に参加しようという動きはむしろ強まっている。もっとも、統一通貨には課題も多く、欧州と同じ道だけが日本の選択肢ではない。いずれの巨大経済圏にも属さずに独自の経済圏を維持するという道もある。また、巨大経済圏の一員となるとしても、パートナーとして誰と組むかという選択がある。
日本企業は生産現場でコツコツと効率を改善することは得意だが、戦略構想力が弱いと指摘されることが多い。日本の政治や社会も足して二で割るといったあいまいな決着を選ぶことが多く、大きな戦略を立てて行動するということは必ずしも得意ではないように思える。しかし、好むと好まざるとに関わらず、世界経済の大きな流れの中で、日本は決断を迫られる。どの戦略が最善なのかは明白ではないが、最悪のケースは想像に難くない。なにも戦略が選択されず、時間だけが浪費されて結果として取り残されることだ。日本は、苦手ではあっても長期戦略を選択することが求められている。

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