コラム
2009年02月16日

「全国的な学力テスト」の結果から見えること -子どもの学力を培い、支えるもの

柄田 明美

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平成19年度から実施されている「全国的な学力テスト」(正式には「全国学力・学習状況調査」)については、その実施と公表を巡ってさまざまな議論が起こっている。この学力テスト、ランキングや地域格差が注目されがちだが、調査では子どもたちの自宅での生活習慣、学校生活や友だちとの関わり、さらに学校としての取組み等についても尋ねており、それらと正答率(正しい答えを回答した率)の関係性を分析している。その結果は報告書(「全国学力・学習状況調査結果概要」文部科学省/国立教育政策研究所)で公開されており、内容は非常に興味深いものである。

20年度の調査結果の一部をご紹介しよう。小学校調査で児童を対象とした調査結果をみると、生活習慣については「朝食を食べる児童」、規律や友だちとの関係性については「学校の決まりを守っている児童」、「友だちとの約束を守っている児童」、「どんなことがあってもいじめはいけないと思っている児童」で正答率が高い傾向がある。また学校を対象とした調査結果をみると、正答率が5ポイント以上全国平均を上回る学校では、5ポイント以上下回る学校に比べて、「地域の人材を外部講師として招聘した授業を行った」、「ボランティア等による授業サポートを行った」、「博物館や科学館、図書館を利用した授業を行った」と回答している割合が高いという結果が出ている。

もちろん、学習時間や学習習慣が学力に大きな関わりがあることは言うまでもない。子どもや学校を取り巻く地域環境の影響も大きいだろう。しかし、規則正しい生活習慣が身についていたり、学校や友だちとのコミュニケーションに積極的な志向を持っている子どもは学力も伴うことが多いし、また、学校を地域に開くことは子どもたちの教育にも前向きな影響があると考えることができよう。

近年、学校を地域に開くことの重要性は強く認識されている。全国的な学力テストで小学校が1位、中学校が2位の秋田県では、公立小・中学校について住民参加による外部評価制度などを実施しており、県が政策として積極的に学校を地域に開こうとしている様子がうかがえる。また、文部科学省でも、「教育課程特例校制度」(学習指導要領等の教育課程の基準によらない特別の教育課程の編成・実施を可能とする特例制度)、「コミュニティスクール:学校運営協議会制度」(保護者や地域の声を学校運営に直接反映させる制度)など、教育のあり方を住民・地域で考え、実践していくための制度を設けている。

こういった制度を活用するには、制度実施上の課題もあるだろうが、何より地域の協力が不可欠である。学校のステークホルダーは、子どもを持っている親だけではない。また、子どもたちの成長する力、生きる力を支えるのは教育関係者だけではないという意識を、広く地域と社会で共有していく必要があるだろう。

地域と社会が子どもと学校に関心を持ち、関わっていくことの大切さも「全国的な学力テスト」の結果から見えてくる気がするのである。
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