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もちろん、キャピタルゲイン狙いで積極的に不動産を取得してきた私募ファンド、あるいは新興不動産会社や一部のJ-REITなどでは、立地条件や建物のクオリティからみて過大評価と思われるような賃料水準や稼動率を想定したものの、実際のキャッシュフローが想定を下回っているケースも少なくないとみられる。このような場合、キャッシュフローの下方修正が利回りの上昇に加わるため、その評価額はさらに大きく下落することになる。
また、当面は景気後退局面が続くとみられるため、安定収益を誇る優良なJ-REITといえども、賃料の引下げや稼働率の低下により、現在のキャッシュフローを維持できない物件が増加すると予想される。このように、投資用不動産は収益還元法で評価される以上、売買価格はもちろん、保有物件の時価評価額も低下傾向を強めていくと考えざるをえない。
ただし、当然ながら、その低下の度合いは一律でなく、物件によって異なるはずである。実際、J-REITの開示資料をみても、個別物件の立地や規模などの格差が評価額に反映されつつある。そこで、昨年までの価格上昇局面では見えにくかった不動産価値の差が鮮明になり、中長期的な視点で選別投資を検討しようとしている不動産投資家や事業者にとっては、むしろ望ましい環境になってきたと考えるべきではないだろうか。
土地神話崩壊後、証券化を契機に収益還元法が脚光を浴び、不動産価格も景気変動や市場の需給に伴って周期的に変動するようになったといわれるが、実は、収益還元法が経験する下落局面は今回が初めてなのである。市況変化があまりに急激だったこともあり、現状では不動産鑑定の一部に混乱もみられるようだが、不動産投資市場における収益評価自体がまだ発展途上にあるだけにやむをえない面もあろう。今回の経験を活かし、セクターや立地条件、建築・設備仕様、スポンサーの信用力、テナント構成の差、経年劣化度合いなどの違いを考慮したリスクプレミアムやキャッシュフローの想定、市場分析などにおいて、不動産鑑定技術がより洗練されるものと期待したい。
特に、1980年代のバブル経済期と異なり、公開非公開を問わず、不動産情報の流通量が飛躍的に増加しており、アナリストや研究機関など鑑定機関以外の第三者による不動産評価の精度も向上していることから、鑑定技術の進歩に貢献できるものと思われる。すでに、不動産事業者や投資家の多くは、不動産鑑定士による評価額はあくまでひとつの意見として、相対化してみることができるリテラシー(不動産情報を読み解く能力)を備えつつある。3月公表予定の2009年1月の地価公示では地価下落地点の増加が予想されるが、マーケット参加者は、マスコミが煽る悲観論にまどわされることなく現実を冷静に受け止め、次の反転上昇サイクルを見据えた建設的な議論を進めたいものである。
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松村 徹
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