2008年12月26日

金融リテラシー計測に関する試論と考察 -生命保険知識の分析から-

栗林 敦子

生活研究部 主任研究員 井上 智紀

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金融サービスの利用に限らず、様々な消費経験の積み重ねにより、人々は消費者として「成熟化」しつつある。金融システムの高度化・複雑化の中で、金融庁などは金融経済教育に取組んでいるものの、金融サービス提供者と利用者の間の情報格差の問題は依然として残っており、金融サービス利用者の「成熟化」は進んでいない。
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金融に関わる消費者の「成熟化」を測る指標の一つとして「金融リテラシー」という概念がある。本稿では、金融リテラシーを「自ら金融商品・金融取引についての情報・知識を、その背景まで含めて取得・蓄積し、理解・判断の上、適切に活用する能力」と定義づけてみた。
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従来、金融リテラシーの測定には、金融に関する知識や理解力についての個人の自己評価が用いられることが多いが、本稿では、自己評価に加えて、数問からなる簡単なクイズに対する回答を客観指標として採用して、主観・客観の両側面から金融リテラシーの測定を試みた。なお、知識は金融の一領域である生命保険についてに限定した。
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主観的指標と客観的指標の組み合わせを用いて、金融リテラシーのタイプを、「高知識一致」「自信」「低知識一致」「謙虚」の4つに分類し、タイプごとの金融意識・金融行動の特性を分析した。この結果、金融意識や行動は客観的指標の水準による差異が大きいことが明らかとなった。
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知識の客観的指標が高い「高知識一致」「謙虚」の2つの層は、他の層に比べると、次のような特徴がみられる。日常的に生保情報に接する機会が多く、特に文字媒体や主体的に情報収集するような媒体に接している。人との会話の中でも生保に関する話題が多い。生命保険の効用をより理解しており、病気、けが、介護などについての保障ニーズが強い。加入プロセスにおいて、より考えたり調べたりする。加入の決め手は、商品の良さ、低い層は外交員の勧めなどである。加入の際の知覚リスクが強く、慎重に商品や加入先の選択を行っている。加入後は、加入した商品やサービス、また加入した生保会社に対する納得感、満足感が高く、ロイヤルティも高い。
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各々の金融リテラシータイプへの分類の要因は以下の通りである。(1)高知識一致層:計画的な生活をする上で生命保険が必要であるといった効用の認識、加入してい
る保険種類の多さ、支払保険料の高さ、認知する会社数の多さ。(2)謙虚層:生命保険があれば安心という効用の認識、計画的な生活をする上で生命保険は必要であるといった効用の認識、支払保険料の高さ、認知する会社数の多さ。(3)自信層:加入している保険種類の多さ。(4)低知識一致層:知名度や評判に左右されることを示すブランド関与の高さ、日常的な情報収集や自分なりの評価基準を持つという情報収集・判断力の低さ、低年令。
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本稿では、「自ら金融商品・金融取引についての情報・知識を、その背景まで含めて取得・蓄積し、理解・判断の上、適切に活用する能力」という金融リテラシーの定義のうち、生命保険に関する情報・知識を中心に検討した。理解・判断や適切な活用までを含めた、総合的な金融リテラシーの計測にむけた検討が今後の課題である。
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栗林 敦子

生活研究部

井上 智紀 (いのうえ ともき)

(2008年12月26日「ニッセイ基礎研所報」)

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