コラム
2008年12月25日

日中韓で新しい社会保障制度の世界モデルを

生活研究部 准主任研究員   金 明中

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日中韓3ヶ国は過去から現在に至るまで政治・経済・文化面における共通点が多く、お互いの制度に影響を与え合いながらこれまで発展・成長してきた。

中でも儒教思想に基づく家族への考え方は政策決定に大きな影響を与えてきた。すなわち、日本と韓国、そして中国は高齢者の介護、子育てなどについて家族が責任を持つべきとする家族主義を特徴とし、長きにわたり家族が重要な役割をしてきたのである。この考え方は現在に至っても日中韓の社会政策、特に社会保障関連政策に反映されている。社会学者であるエスピン・アンデルセンは福祉国家を「自由主義的福祉レジーム」、「保守主義的福祉レジーム」、「社会民主主義的福祉レジーム」の三つの福祉レジームに分類しているものの、家族主義的福祉レジームと言える日本や韓国、中国のことは詳細に説明されていない。

日中韓3ヶ国のうち、最も早く社会保障制度を導入したのは日本であり、韓国と中国は日本の制度を参考にしながら制度を構築・整備した「後発」走者である。もともと「後発」という言葉はおくれて出発するという意味で、最近は医薬品と関連してよく使われている。その一例として挙げられるのがジェネリック医薬品と言われる後発医薬品である。先発医薬品は、新しい効能をもち、臨床試験などによりその効能が有効であることや安全であることが確認、承認された医薬品であるが、後発医薬品は20年から25年にわたる先発医薬品の特許期間が切れた後に、先発医薬品と成分や規格が同一であるとして、臨床試験などを省略して承認される医薬品である。従って、後発医薬品の価格は、新薬より2~7割安く、近年厚生労働省も社会保障の財源を減らすために後発医薬品の使用を奨励している。

このように医薬品に例え、先に導入・施行された制度を「先発社会保障制度」、先発社会保障制度を参考にし、後から導入された制度を「後発社会保障制度」だとすると、日本が先発社会保障制度を、韓国と中国が後発社会保障制度を構築していると言えるだろう。すなわち、日本が欧米の制度を参考にし、試行錯誤を経ながら儒教思想に基づいた家族主義的な社会保障制度を戦前から構築してきたことにより、戦後韓国と中国は、大きな手間をかけることなく手軽に新しい制度を構築できたのである。さらに「先発社会保障制度」は先発医薬品とは異なって特許権や特許期間がなく、「後発社会保障制度」は「先発社会保障制度」と成分が大きく異なっても制度そのものとして認められるという特徴を持っている。従って、韓国と中国は日本の制度を十二分に応用し、時間的・経済的損失を最小化しながら、制度を構築・改正できたのである。こういう面では政治的な思想が異なった中国よりは韓国が最大の受恵者であったかも知れない。

しかしながら、現在韓国と中国では日本以上に早いスピードで少子高齢化が進んでおり、新しい人口構造に対する独自の制度構築の必要性が高まってきた。その結果、韓国と中国政府は日本だけに頼らず、新しい制度の構築に積極的に取組み始めたのである。

この点は日本の政策立案者にとっても示唆するところが大きい。すなわち、同じ家族主義的福祉国家レジームの国である韓国と中国がこれから実施する社会保障制度を参考にすることは、日本にとっては制度の改正と構築に伴う時間的・経済的ロスを節約できるチャンスかも知れない。

従って、少子高齢化の急速な進展など共通の問題点を抱えている日中韓3ヶ国が、共同で対応することは望ましいことであり、更なる研究者の交流や共同の研究が行われるべきではないだろうか。今後新しい社会保障制度のモデルとして日中韓3ヶ国の共同研究の成果が世界から注目されることに違いない。

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生活研究部   准主任研究員

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
社会保障論、労働経済学、日・韓社会保障政策比較分析

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