コラム
2008年12月10日

第三者割当増資、何が問題か

  新田 敬祐

文字サイズ

新聞報道によれば、法務省が第三者割当増資の法的規制の検討を開始したとのことである。第三者割当増資とは、会社と何らかの関係がある特定の者だけに対して新株を発行し、資金調達を行うことである。第三者割当増資は、現行の法制度の下では、(1)新株発行後の合計株式数が、株主総会で承認された発行可能株式総数の範囲内で、(2)増資の主な目的が、現経営陣の支配権維持ではなく、(3)発行価格が時価を著しく下回らないとの条件を満たせば、取締役会決議のみで実行可能である。法改正は、一定規模以上の第三者割当増資には、原則、株主総会決議を義務付ける方向で検討されるそうだ。

では、現行制度の何が問題なのだろうか。焦点となっているのは、株式会社のうち、証券取引所で株式が売買されている上場会社である。上場会社には、保有株数が少なく、単独ではほとんど発言力がない「少数株主」が多数存在する。第三者割当増資を利用することで、現経営陣が、自らの嗜好に基づいて経営支配権を移転できるが、この結果、少数株主が不測の損失を被る可能性がでてくる。すなわち、問題の焦点は、上場会社において、支配権移転を伴う第三者割当増資が、経営陣の判断のみで実行可能という点にある。

実際に、近年、問題視される第三者割当増資のケースが散見されるようになり、先進各国との比較でも、制度的手当てが不十分であるとの印象が強い。少数株主の利益が十分に保護されていなければ、株式市場の活性化は望むべくもないので、何らかの手当てが必要との認識も当然であろう。

少数株主の視点からは、現行制度について、主に以下の3つの問題点が指摘できる。第一に、現経営陣は、現在の支配構造を前提に、株主からの信任を得て、会社経営を委任されており、そこでは一定のエージェンシー関係(株主=委託者、現経営陣=代理人)が成立している。しかし、その後、現経営陣が、株主の承認を得ることなく、自らの嗜好に沿って支配構造を変更できると、当初に成立していたエージェンシー関係が無効になってしまう。既存の株主は、新しい支配構造の下での優先順位の低下を懸念するだろう。株式会社の理念として、当初に成立していたエージェンシー関係は強固に維持されるべきで、支配構造変更の際には、新しいエージェンシー関係を再構築すべきとの考えがある。

第二に、新しい支配株主と既存の株主の間での利益移転の問題がある。第三者割当増資で新株を受け取るのは新しい支配株主のみであるが、その発行価格を、既存の株主にとって不利な、割安な価格に設定することが制度上、許容されている。もちろん、時価を著しく下回る価格での発行は有利発行に該当し、株主総会決議を要することになるが、法解釈上は、一定の範囲内(時価×0.9が下限。ただし、時価には一定の範囲で恣意性あり。)で割引発行しても有利発行には該当しない。この制度を悪用して大規模な第三者割当増資を実施すれば、既存株主が保有する1割程度の経済的価値を、新たな支配株主に移転することができる。利益移転の規模は、時価の設定次第でこれを上回る可能性があり、極端なケースでは、業績の下方修正など株価を下落させる情報を、事前に選択的に開示することで、さらに大規模な利益移転も技術的には達成可能である。これに対して、現行制度は、十分な抑止力を持たない。

第三に、支配権の移転が生じる場合、既存の株主には、通常の株価よりも高い価格で、新しい支配株主に株式を売却する機会が確保されるべきである。一般に、支配権の移転は公開買付け(TOB)によって実現するが、その際、買収者は買収提案前の時価よりも高い買付け価格を提示して、既存の株主から支配権を得ることが多い。この支配権獲得に要する割増し価格は、コントロールプレミアムと呼ばれる。しかし、第三者割当増資で支配権が移転する場合には、既存の株主はコントロールプレミアムを得られないばかりでなく、大規模な増資が割引価格で行われることによる株価下落で、思わぬ損失を被るリスクにさらされることになる。

これらの問題は、普通株の発行による第三者割当増資のみで生じるものではない。同様な効果は、新株予約権や新株予約権付社債、普通株に転換可能な議決権のない優先株、議決権のある優先株等の発行でも生じるので、これらも含めた手当てを検討することが必要となる。一定規模以上の第三者割当増資に、株主総会の承認を包括的に義務化すれば、指摘した3つの問題点が、ほぼ解消されるのではないかと期待される。

一方で、第三者割当増資には、上述した負の側面ばかりでなく、経営危機に瀕した企業の再生や、市場における信用が不十分なベンチャー企業の有効な資金調達手段という正の側面もある。規制が過剰になれば、こうした正の側面が殺がれることにもなりかねないので、制度設計は緻密さを求められる難しいものになろう。

もっとも、このような規制が必要となるのは、制度上の抜け穴が悪用されるケースが目立つからである。指摘するまでもないが、最も重要なのは、制度を悪用した搾取は行わないという市場参加者の倫理観である。倫理観なき世界では、過剰規制のベネフィットが、その莫大なコストをも上回る可能性すらあるからである。

このレポートの関連カテゴリ

新田 敬祐

研究・専門分野

レポート

アクセスランキング

【第三者割当増資、何が問題か】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

第三者割当増資、何が問題かのレポート Topへ