コラム
2008年12月02日

中小小売業に求められる企業家精神

  小本 恵照

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わが国の小売業者数は1985年をピークに減少が続いているが、その中でも中小小売業者の減少が著しい。1985年を100とする指数でみると、従業者100人以上の小売業者は244にまで上昇しているのに対し、従業者4人以下の小売業者は2007年には52にまで低下している。中小小売業者が減少している要因には、大型店問題や経営者の高齢化など様々なものがあるが、店舗に「魅力」がないことが最も大きな要因のようだ。

中小小売業者から構成される全国の商店街に対する調査である「平成18年度 商店街実態調査報告書」の中の「商店街の抱える大きな問題」をみると、回答数の多い上位3つの項目は、「魅力ある店舗が少ない」が36.9%と最も多く、「商店街活動への商業者の参加意識が薄い」33.4%、「経営者の高齢化等による後継者難」31.4%となっている。中小小売業が廃業に追い込まれる最大の要因として連想される大型店の進出については、「大型店との競合」23.9%が6番目の項目として登場するにとどまっている。また、「経営者の高齢化等による後継者難」は3番目の項目であるが、魅力のない店舗を継承したい人は少ないであろうから、後継者難も店舗に「魅力」がないことの結果と考えられなくもない。

中小小売業者が店舗の魅力を高める方法は何であろうか。小売業者は、一般に(1)店舗(立地、デザイン、雰囲気など)、(2)サービス、(3)商品(品揃え、品質、PB商品など)、(4)価格などの次元で競争していると考えられている。こうした次元で考えると、規模の経済性に欠ける中小小売業者としては、低価格や品揃えで大手小売業に対抗することは難しく、サービスの充実や利便性の高い店舗によって顧客に訴求することで生き残りを図ることが望ましい戦略にみえる。

しかし、家電量販店最大手のヤマダ電機やユニクロを展開するファーストリテイリングも創業時は中小小売業者であったことを考えると、中小小売業者が大手小売業を凌ぐ企業に成長できる可能性は残っている。その原動力となるのは、リーダーシップや企業文化といった企業のより根源の部分に存在する要素である可能性が高い。その一つとして経営者の企業家精神が挙げられる。例えば、ミシガン州立大学のグリフィス教授らは269社の中小小売業者を対象に研究を行い、経営者に企業家的志向(entrepreneurial proclivity)が強いほど、顧客、競争者、供給者に関する知識の吸収が進められることを示した。そしてこの吸収された知識によって市場への迅速な対応が可能となり、良好な企業業績につながることを明らかにしている。企業家的志向の中身は、経営者が、(1)革新的な戦略を奨励する、(2)創造的なソリューションを重視する、(3)問題点ではなく機会についてより議論する、(4)従業員を平等に扱う、(5)積極的で競争的であるといったことである。

この結果は、経営者の意識によって中小小売業の成長は大きく左右されることを示している。中小小売業者は全体としてみると減少しているが、経営の変革によって、中小から中堅に、ひいては大企業に成長できる余地は決して小さくはないと言えるだろう。国民経済のレベルからみると、中小小売業者から多くの成長企業が生まれ小売業界が活性化することは、最終的には消費者の利益を高めることにもなる。より多くの中小小売業経営者が企業家的志向を強め、元気のある中小小売業が増えることを期待したい。

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