コラム
2008年11月25日

老後は都市から地方へ~QOL(生活の質)向上を求めて移住するオーストラリアのリタイア層~

  丸尾 美奈子

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団塊の世代の定年退職が本格化する中で、彼らが終の棲家をどこに求めて行くのか、注目されている。リタイアした団塊世代は、数千万円にのぼる退職一時金や終身年金の権利を有していることもあり、居住するコミュニティに与える経済効果も大きいとみられるからだ。

現役時代を都市部で過ごした団塊の世代が、果たして、生まれ故郷等地方に移り住むことになるのか?残念ながら、雲行きは怪しい。国土交通省が平成17年度に実施した、三大都市圏に居住する団塊世代へのアンケート調査結果によると、移転、移住は考えていないか、行うにしても生活の基盤、本拠までは移さない人々が非常に多いという調査結果が出ている。

都市部定住を希望する理由として、(1)通院に便利なこと、(2)交通網が整備され、自動車を運転しなくなっても比較的自由に移動できること、(3)買い物に便利なこと、などが挙げられることが多い。長年住んでいる都市部が、そもそも「なじみの場所」になっているほか、子供世代が都会で成長しているというのも理由であろう。こうした理由からすると、故郷(地方)に移住するというのは、老父母の介護の必要に迫られている場合とか、田舎の生活に自分なりの生活の質(QOL)を感じている等、限られたケースなのだろう。

オーストラリアのリタイア層に見られる現象として、“Sea Change Phenomenon”というのがある。引退と共に、現役時代に生活していた都心部から、地方の沿岸地域(ゴールドコースト等)に移住するというもので、一種の社会現象にまでなっている。

沿岸部の人口は、2000年から2005年の5年でみると年率平均3.3%の割合で増加している。都市部よりも安い生活費で、豊かな自然に恵まれた地方(沿岸部)で暮らすほうが、生活の質(QOL)を高めることができるというのが、移住の背景にあるようだ。興味深いことに、リタイア層の移住に併せて、リタイア層の消費生活を支える産業(旅行代理店、商業店舗等)が拡大し、これらの産業のサービス供給者として若年層も沿岸部に移住してきているという。

ある程度の社会保障サービスの下地があるからこそ、リタイア層が流れてきたのであろうが、こうした現象を受け、オーストラリア連邦政府は、都心部と地方部との社会保障の格差是正に注力している。基幹病院と地方病院との医療ネットワークの整備、地方部の介護士等への報酬の引上げ、単身生活者のオンコールサービス、移送や買い物補助サービスの充実等、地方部で都心部と同じレベルの社会保障サービスが受けられるような努力が続けられている。

わが国の自治体の中には、退職を控えた団塊の世代へ移住促進アプローチを行っているところもある(高知県四万十市のリタイメントタウン、北海道伊達市のウェルシーランド構想等)。地方部でも安心して暮らせるオーストラリアの社会保障サービスの仕組みづくりは、地方活性化や地域格差是正を模索しているわが国においても、示唆が多いと思われる。

丸尾 美奈子

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