コラム
2008年10月21日

サブプライムは住宅問題ではない

櫨(はじ) 浩一

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1.金融問題から実体経済へ

米国のサブプライムローン証券化商品の価格下落に端を発した世界的な金融危機は、世界経済全体を揺るがす問題に発展している。リーマンブラザーズの破綻を受けて世界の株式市場はパニック状態というべき状況となった。10月10日にワシントンで開催されたG7で金融危機に対する行動計画が発表され、米・欧各国でこの内容が実施に移されたことから、下落を続けていた株式市場は一旦大きく反発した。株価の下落が止まるための条件として市場が期待していた、(1)今後予想される損失の拡大に伴う資本不足に対応した公的資金による金融機関への資本注入、(2)預金の流出を防止するための預金保護、(3)金融機関同士の取引の保護、などの措置が実施されることになり、金融危機が急速に悪化するという懸念は後退した。

しかし今度は、景気後退から企業収益が悪化するという懸念から、株価は乱高下するようになっている。15日のNY市場では9月の小売売上高が予想を下回ったことから、ダウ平均株価は733ドルの大幅下落となり、翌日の東京市場も株価が急落した。17日のNY市場では、再び9月の住宅着工が予想を下回る内容だったことなどから景気の先行き不透明感があらためて意識されダウ平均株価は127ドル安となった。

金融危機を懸念したパニック的な株価の下落は落ち着いたものの、今度は実体経済の悪化が問題となっている。

2.サブプライムは消費の問題

サブプライムローン問題の今後については、米国の住宅市況が底を打てば景気は回復に向かうという意見が多い。金融市場混乱の発端となったのは、米国の住宅投資が過熱し、住宅価格の上昇が行き過ぎたことと、住宅市場に売れ残りの在庫が積みあがってしまったことだから、それが解消されれば景気はまたもとの回復軌道に戻るだろうというものだ。

しかし、ことはそう簡単には行きそうもない。米国家計が保有している債務の可処分所得比は2000年頃から上昇が加速しているが、これは住宅を取得するために借入れられたものばかりではない。2007年はじめ頃のサブプライムローンの利用目的を見ると、住宅購入目的よりも、むしろ借り換えによってローン残高を増やして手元に残った資金を消費に充てるために利用している人の方が多い。住宅価格が上昇して担保価値が上昇していたので、10万ドルだったローンを借換えて11万ドル借り、前のローン10万ドルを返済して手元に残った1万ドルを消費に充てるという、錬金術のようなことが可能だったのだ。

もちろんその一方で、家計の負債は積みあがってしまった。米国の家計は所得に対して膨らみ過ぎた債務を減らすというバランスシート調整を迫られている。その手法は単純で、消費を抑えて収入の中から少しずつ借入れを返済して行くしかない。従って住宅価格が下げ止まっても、消費の低迷がかなりの期間続くことになるだろう。サブプライム問題が大変なのは、それが消費の問題で、かつ長引くと予想されるからだ。
米国家計負債の可処分所得に対する比率

3.世界経済への影響

世界経済は、1990年代後半から多少の波はあったものの好調を続けてきた。それは好調な米国経済が世界からモノをどんどん買ってくれたからである。日本は輸出主導でバブル崩壊によって傷ついた経済をなんとか立て直すことができたし、中国などの新興国も米国向けの輸出を伸ばすことで高成長を続けることができた。しかし、この結果米国の経常収支の赤字は非常に大きなものとなっていた。米国の家計が借金漬けになってしまっただけではなく、赤字を長年続けたために米国という国自体も対外債務が大幅に増加してしまっている。

米国の家計が借金の縮小を迫られているように、米国全体でも対外的な赤字の縮小が必要になる。その手法も単純なもので、輸入を減らし輸出を増やすということに尽きる。米国以外の国々は、米国向けの輸出が減り、米国からの輸入が増えることになる。輸出主導の経済運営を行ってきた日本やアジア各国は、内需中心の経済成長にどうやって切り替えていくか、中長期的な経済運営のあり方の転換が求められている。
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