コラム
2008年09月16日

社会保障と幸福度の関係

  丸尾 美奈子

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国際非営利調査機関「World Values Survey」(以、WVS)によると、世界で最も国民の幸福度の高い国はデンマークで、プエルトリコ、コロンビア、アイスランド、アイルランド、スイス、オランダと続く。因みに、米国は16位、日本は43位となっている。文化によって幸福度を測る尺度が異なり、特に日本人の幸福感は欧米人と異なるという文化心理学者の見方もあるが、同Surveyの質問項目は、「どのくらい幸せか」「現在の生活にどのくらい満足しているか」といった単純かつ主観的なものとなっており、率直に「とても幸せ」「とても満足」と回答している割合の多寡は無視しえないのではないか。

1位となったデンマークは、人口500万で、最近は移民が増えているものの、ほぼ単一民族国家に近い。付加価値税は25%で高率の所得税負担と社会保障負担を合算すると73.7%(2005)と世界で最も国民負担率が高い(因みに日本は40.1%(2008))。教育・医療費は無料、国民一人当たりGDPは世界最高水準、エネルギー・食料自給率いずれも100%以上となっている。年金の所得代替率は日本より低いが、家賃・暖房費・電気代等最低限の生活維持のための各種補助が充実しており、老後を迎えた段階で、多くの貯蓄を残す必要はないとされている。但し、高率の所得税に始まり、年金支給においても所得制限等が随所に織り込まれ、所得再配分の仕組みが現役から老後まで徹底している。結果として、国民間の所得格差が最も少ない、典型的な福祉国家となっている。

一方、2位・3位のプエルトリコやコロンビアは、GDPも低く、決して裕福な国家ではないが、宗教を軸とした共同体の連帯意識は強く、つよい郷土愛(愛国心)などが、現状の生活に対する満足度を上げているものと推測される。

ランキング上位の顔ぶれからは、幸福度は、必ずしもGDP、社会保障の充実、税率の高低、といったものに左右されないようだが、WVSのイングルハート教授は、経済発展が幸福度に及ぼす影響が薄れてきており、むしろ、生き方を自由に選択できるとか社会の寛容性などが、幸福度を左右する重要な要素となっていると分析する。

わが国の社会保障制度は自立自助を基本的な考え方としており、生活保護という最終的なセーフティーネットは存在するものの、医療も介護も保険料を支払った対価として受けられる仕組みとなっている。国民の大半は、心情的に無宗教であり、精神的な拠り所が有るわけではない。また、高齢化社会が進展する中で、社会保障給付も現在以上のものを望むことは難しく、むしろ、給付の低下は必然な状況となっている。しかも、ある文化心理学者によると、日本人の幸福感は「関係性に基づいた幸せを優先する」傾向にあるという。核家族化、離婚や経済的な理由等で老後を一人で迎える人口が増え、「他者とのつながりのない」状況が増している中で、今後わが国の国民の幸福度はどう変化していくのだろうか。

このほど政府がまとめた「社会保障の機能強化のための緊急対策~5つの安心プラン~」の冒頭には、「この国に生まれてよかった」と思える国づくりを進めるため、との文言がある。国際競争力を維持し、安心な社会保障給付のシステムを議論していくことも勿論大事だが、そもそも論として、国民の幸福度を上げ、「この国にうまれてよかった」と実感してもらえる社会とはどんな社会なのか、そのための施策として何が必要なのか?そういった視点を持ち続けながら、社会保障のあるべき姿について、考えていきたいと思っている。

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