コラム
2008年06月30日

ことばのチカラ

森重 透

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岩手・宮城内陸地震をはじめ、つらいことの多かった今年の6月が、終わろうとしている。東京・秋葉原の無差別殺傷事件の犯人は、今は反省の弁を述べているそうだが、彼がもし、Mark Twain(1835-1910)のこの言葉を知っていたなら、はたしてこのような「取り返しのつかない」事件を起こしたであろうか。「人は皆、月である。決してだれにも見せることのない暗い面を持っている」 - 言葉の持つ救いの力。

つらい6月だったが、タイガー・ウッズ(32)の全米オープンゴルフでの優勝、トリプル・グランドスラムの達成には、感動した。今年の初め、ビュイック招待で米ツアー参戦7連勝を飾って絶好調の彼が述べた言葉、「もう少しショットを安定させたい。いつだって直すところがある。それがゴルフだ」 - 言葉の持つ挑戦の力。

私事で恐縮だが、タバコをやめることができたのも、言葉のおかげだった。「新世紀 家族・健康・思いやり とうとう(10・10)われも 吸わない人(びと)に」-2001年10月10日(かつての体育の日)に思い立ち、そして禁煙に成功した。語呂合わせ・言葉遊びの感もあり面映ゆいのだが、この自作の狂歌は、大いに効いた。その後作ったダイエット一念発起の応援句、「書き初めは 酒週四日 腹八分」も、結構気に入っている。

今や筆者の人生観は、カ行という名の、ことばのチカラ:「人生か・き・く・け・こ」である。「か」は、家族・家庭。守るべきは、何より家族、治めるべきは、まず家庭。「き」は、気力・気概。責任をもって事に当たるとき、最後はこれがものを言う。「く」は、苦労・苦学。何事も、「 NO CROSS , NO CROWN 」(苦あれば楽あり)なのだ。「け」は、言うまでもなく、心身ともに健康・健全。「こ」は、交流・交際。かけがえのない人生行路において出会う他者との交流・交際こそが、豊かな人生を可能にしてくれる。

「はじめに言葉ありき」とは、新約聖書ヨハネによる福音書にある「ことば」である。人間は、言語という表現を使って生きている。人生の限界を知り、逆に自らの世界を拡げるのも、すべてこの言葉の力によるものではないだろうか。創造の源には「ことば」があり、それが人間社会を形作っていくのだ。

翻って、われわれシンクタンクの役割は、地道な調査・研究をベースにして、言葉の力をもって、世の中になにごとかを発信・提言していくことにあると思われる。ニッセイ基礎研究所は、「変わる時代の確かな視点」というコーポレート・スローガンに、荒海を照らす一灯のごとく社会の木鐸としての重要な役割を発揮していくという、誓いを込めている。そしてそれを可能にするのは、限界や制約を正しく認識しつつ、なお無限の成長を追求していく気概を持った研究員個々人の、「ことばのチカラ」へのチャレンジではなかろうか。

人口・資源・地球温暖化・・・今や、人間社会の最大のテーマをキーワードで表わせば、“持続可能性”だ。それは、人類存続のリスクそのものをかけたものである。

「基礎研究は、地球を救う!」くらいの気持ちで、取り組んでいこう。
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