2008年06月25日

地球温暖化防止に向けた我が国製造業のあり方 -CO2排出量の環境効率に関わる国際比較分析を中心に-

社会研究部 上席研究員   百嶋 徹

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企業の社会的責任(CSR)への関心が高まる中、企業による地球環境問題への取り組みが強く求められるようになってきており、特に「ポスト京都議定書」に向け温暖化ガス削減の強化が検討される方向にある。このような環境制約下で、我が国製造業では、「環境と経済の両立」が重要な課題となっている。
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「環境効率」は、製品やサービスの経済価値を環境負荷で除することにより算出され、環境負荷単位当たりの経済価値を示す。環境効率の向上は、「環境と経済の両立」を図るためにクリアしなければならない最低限のハードルであると言える。
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実質GDPをCO2排出量で除することにより算出される国単位の環境効率を考察すると、我が国では、70年代以降一貫して主要国の中で最も高い水準を維持しつつ、70年代から80年代に向上を図ってきたが、90年代以降は横ばいにとどまっている。
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90年代以降、我が国の環境効率が横ばいにとどまっている背景を推論すると、(1)既存技術の下での環境効率の上限にほぼ到達している可能性があること、(2)設備の老朽化が進展しているにもかかわらず、エネルギー効率の高い最新鋭の設備への更新投資を促す産業再編成が遅れていること、が挙げられる。
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我が国の環境効率が上限値にほぼ到達しているならば、それをブレークスルーする革新的な技術開発に挑戦していくことは重要な課題である。また、我が国企業が環境効率の低い国々へ環境技術の移転を推進することは、地球社会の厚生最大化につながるとみられる。さらに、我が国製造業では、エネルギー効率の抜本的な向上を図るためには、老朽設備を廃棄し最新鋭の設備に更新していく必要がある。
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営業利益をCO2排出量で除することにより算出される企業単位の環境効率(営業利益ベース環境効率)は、環境性(CO2排出量単位当たり売上高=売上高ベース環境効率)と経済性(売上高営業利益率)の掛け算に分解でき、その両立度の状況を考察することができる。
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大手企業の環境効率の国際比較分析によれば、半導体産業では、経済性(収益性)で優位な企業は環境性(環境保全活動の成果)でも優位である傾向がみられる一方、鉄鋼産業では、環境性は収益性に必ずしも連動していない。半導体産業では、技術進歩が早く、エネルギー効率の高い先端製造ラインへの投資の格差によって、環境性の企業間格差が付きやすい一方、鉄鋼産業では、技術進歩のスピードが相対的に遅いため、設備投資の格差によって、企業間格差が付きにくいとみられる。
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シャープは、2004年に企業ビジョン「2010年地球温暖化負荷ゼロ企業」をいち早く宣言した。これは、全世界での事業活動での温室効果ガス排出量を可能な限り抑制する一方、太陽電池事業による創エネルギーと環境配慮型家電製品の省エネルギーによる温室効果ガス削減量を大きく拡大することにより、2010年度までに温室効果ガスの削減量が排出量を上回るようにするというものである。
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シャープの取り組み事例は、製造業では企業のエリア内での環境負荷のみに着目するのでなく、環境配慮型製品の使用段階(企業エリア外)での環境負荷削減効果も併せて評価されるべきであるということを示唆している。これは、製造業に対する環境性の評価において、環境負荷のライフサイクル評価が重要であることに他ならない。
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国際競争力の強い企業が、工場の立地最適化の結果、国内で製造拠点を大幅に拡充すれば、企業エリア内での温室効果ガスの総量削減が難しくなるとみられるが、この点のみを捉えるとバランスを欠いた評価になってしまう。環境負荷のライフサイクル評価に加え、国内生産拡大に伴う雇用増や税金支払増も評価されるべきである。
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地球温暖化防止に向けた戦略オプションは多様になってきている。生産段階でのCO2排出量削減に加え、環境配慮型製品の開発、CDMプロジェクト等による技術移転、排出量取引の利用等を組み合わせて、効果的な戦略ポートフォリオを構築することが求められる。鉄鋼業界では、生産段階での取り組み以外の戦略オプションも組み合わせながら、CO2排出量削減に向けた多角的な取り組みを積極化している。
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産業再編成を通じて、環境性(エネルギー効率)と経済性(生産性)の両立を図る、真の国際競争力を有する最新鋭の製造拠点への集約が進めば、産業部門だけでなく民生・運輸部門でのCO2排出量削減も促進され、我が国全体のCO2排出量の総量削減につながっていく可能性が高いと考えられる。

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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、産業立地、地域クラスター、イノベーション、企業不動産(CRE)、環境経営・CSR

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